エビヅル

エビヅル
エビヅルの果実と葉
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : バラ亜綱 Rosidae
: クロウメモドキ目 Rhamnales
: ブドウ科 Vitaceae
: ブドウ属 Vitis
: エビヅル V. ficifolia
学名
Vitis ficifolia Bunge (1833)[1]
シノニム
和名
エビヅル(蝦蔓)、ミツバブドウ[1]
リュウキュウガネブ[1]
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エビヅル(蝦蔓[8][9]・蘡薁[8][9]学名: Vitis ficifolia)は、ブドウ科ブドウ属つる性落葉木本である。雌雄異株

名称

和名「エビヅル」は、つる性の植物で、実がエビの目に似ていることから名付けられている[10]

古名はヤマブドウとともに「エビカズラ」(葡萄蔓)[8]、「エビ」とはブドウの古名である[11]。ただし、中国では「蘡薁」は Vitis adstricta Hance という別の野生ブドウを指す。学名に Vitis ficifolia を使われることが多いが、Vitis ficifolia のタイプ標本は中国の桑葉葡萄につけられたもので、桑葉葡萄とエビヅルでは形態的な違いも大きい。

分布と生育環境

日本朝鮮半島中国東アジア地域に分布し、日本では本州四国九州に分布する[11]。山地や丘陵地にふつうにみられる[11]

特徴

落葉つる性木本で、他の木本などに巻きひげによって上昇する[11]巻きひげに対して対生するが、2節ずつついていて3節目ごとに消失しているが、これで他の植物に絡まる[10]。葉には葉柄があり、形は扁卵形で長さ5 - 8センチメートル (cm) 、3 - 5裂し、葉裏にはクモ毛とよばれる長い毛がある[11][10][12]。葉の先が丸くなるのが特徴[13]。秋には赤色から橙色に紅葉することが多いが、やや地味[10][13]

花期は6 - 8月で[11]雌雄異株[11]花序は総状円錐花序で長さ6 - 12 cmになる。花は小さく、雄花、雌花ともに黄緑色で花序に密集する[11]

秋には直径5 - 6ミリメートル (mm) の果実がブドウの房状に黒紫色に熟し、甘酸っぱい味があり食べることができる[11][10]。しかし、果汁にエビヅル臭という青臭いにおいを有するため、果実品質の評価は一般に低い。花は、新梢が伸長すれば何度も着花するため、同一樹に、様々なステージの果実が着生する[14][15]

  • 未熟な果実
    未熟な果実
  • 新芽
    新芽
  • 新芽。出たばかりで赤みがかっている。
    新芽。出たばかりで赤みがかっている。
  • 吸い上げた水が出てきている様子
    吸い上げた水が出てきている様子
  • 葉と蕾。
    葉と蕾。

変種

  • シチトウエビヅル Vitis ficifolia Bunge var. izu-insularis (Tuyama) H.Hara - 葉が大型になり、3浅裂し先端がとがる。伊豆七島に分布する。
  • キクバエビヅル Vitis ficifolia Bunge var. sinuata Hara- 本州南部、四国、九州に分布する。葉の裂刻が深い。
  • リュウキュウガネブ Vitis ficifolia Bunge var. ganebu Hatus. - 八重山、琉球、奄美諸島、トカラ列島に自生する。葉は無裂刻。
リュウキュウガネブは、エビヅルと同一種とする記述もいくつか見られる。さらに、シチトウエビヅルと葉の形態が似ているため、リュウキュウガネブとシチトウエビヅルを同一種とすべきだとの意見もあるが、リュウキュウガネブは他のエビヅル近縁種と異なり、芽が無休眠性を示すなどの生態的な差異が大きい。また、最近ではリュウキュウガネブ果皮に含まれるアントシアニンの種類と量が多いことから、その機能性が注目されている。ちなみに「ガネブ」とは九州地方の方言で、ブドウの意味である。

対馬に分布するケナシエビヅルは「エビヅル」という名前が付いているが、 Vitis austrokoreana Hatusimaの学名が付けられていて、エビヅルとは別種となっている。しかし、詳しいことはよくわかっていない。

利用

果実は生食、ジャムジュースに加工して利用できる[10]。また、葉を乾燥し、葉の裏のクモ毛をモグサ代わりに利用する。最近では、リュウキュウガネブの葉から抽出したエキスを含有した化粧水が市販されている。葉エキスの主成分はレスベラトロールである。またエビヅルの実を入浴剤として利用する地域がある[16]

出典・脚注

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis ficifolia Bunge エビヅル(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis thunbergii Siebold et Zucc. エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis heyneana Roem. et Schult. subsp. ficifolia (Bunge) C.L.Li エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis ficifolia Bunge var. thunbergii (Siebold et Zucc.) Lavalée エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis ficifolia Bunge var. lobata (Regel) Nakai エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis ficifolia Bunge var. ganebu Hatus. エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Vitis lanata auct. non Roxb. エビヅル(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月19日閲覧。
  8. ^ a b c 三省堂編修所『何でも読める難読漢字辞典』(初版)三省堂、1995年9月10日、8頁。ISBN 4385135916。 
  9. ^ a b 三省堂編修所『三省堂 難読漢字辞典』(初版)三省堂、2009年6月20日、333頁。ISBN 9784385135922。 
  10. ^ a b c d e f 亀田龍吉 2014, p. 18.
  11. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 256.
  12. ^ 中川昌一, 堀内昭作, 松井弘之 ほか、「日本原産野生ブドウの分布ならびに葉の形態学的特性」 『園芸学会雑誌』 1991年 60巻 1号 p.31-39, doi:10.2503/jjshs.60.31, 園芸学会
  13. ^ a b 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日、62頁。ISBN 978-4-8299-0187-8。 
  14. ^ 松井弘之「日本原産野生ブドウの生理・生態学的特性」『日本醸造協会誌』第84巻第10号、日本醸造協会、1989年、687-693頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.84.687。 
  15. ^ 「植物開花情報(462) エビヅルVitis ficifolia Bunge(ブドウ科) 2014-06-02東京農大・農学部・植物園」東京農大 植物園だより
  16. ^ 『信州の民間薬』(出)医療タイムス社、(著)信濃生薬研究会 1971/10, NCID BA84350417

参考文献

  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日。ISBN 978-4-418-14424-2。 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、256頁。ISBN 4-522-21557-6。 
  • 佐竹義輔他編『日本の野生植物 木本 II 』平凡社、1989年。

関連項目

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