エレベーター試験塔

エレベーター試験塔
レンガづくりの街並みの中に円筒ケイの塔が建っています。コンクリート製の外壁がやや土色がかっているのは、まわりの景観に合わせているのでしょうか。
白くてシンプルなデザインの塔です。一番高い所に四角くて横長の窓が開いています。足元に昭和モダン建築の民家があるため、キン未来ふうのタワーとの対比が面白いことになっています。
塔は全体的に円筒ケイ。外壁が螺旋状になっている変わったデザインです。ちん
左:ナショナルリフトタワーイギリスの旗 イギリス  1982年竣工) - 地上高 127.5 m
中央:SOLAÉ日本の旗 日本  2007年竣工) - 地上高 173.0 m
右:ロットヴァイル試験塔ドイツの旗 ドイツ  2017年竣工) - 地上高 246 m

エレベーター試験塔(エレベーターしけんとう、: elevator test tower)とは、エレベーター製造会社がエレベーターの技術研究性能試験を行うことのみを目的として使用する、の形をした研究施設である。エレベーター研究塔(エレベーターけんきゅうとう)ともいう。

概要

1888年、オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)はアメリカ合衆国ニューヨーク州ヨンカーズニューヨーク市の北隣にある都市)にある自社工場にエレベーター試験塔を完成させた[1]。おそらくはこれが米国で最初のエレベーター試験塔であったと考えられる[1]

高い塔と高層ビルを主とする高層建築物にはエレベーターが不可欠である。1950年代までの世界のエレベーター試験塔は地上高 50 m強というものであったが、1967年に地上高 90 mの日立製作所水戸工場エレベーター研究塔 (Hitachi Test Tower) が日本勝田市(現・ひたちなか市)に登場し、建築物のますますの高層化に対応した。1982年にはイングランドノーサンプトンナショナルリフトタワー(地上高 127.5 m)が登場し、100 m超の時代に入った。その後、100 m超のエレベーター試験塔が世界で幾棟も建てられていったが、50 m前後のものも新たに建てられてはいる[注 1]2009年現代峨山韓国の利川市に地上高 205 mの試験塔 (Hyundai Asan Tower) を建てると、これを皮切りに世界のエレベーター試験塔は200 m級の時代に突入してゆく。2010年代後期後半から現在(※2021年時点)までは、200 m級後半の時代である。

また、2010年代後期後半から2020年までは、世界の大手エレベーター・メーカーがこぞって中国本土に世界最大級(200 m級の半ばから後半)のエレベーター試験塔を建設していった時代でもある。2021年時の地上高ランキングで上位 6棟のうち 5棟までが中国本土で新築されており、例外はドイツで新築されたロットヴァイル試験塔のみである。

世界のエレベーター試験塔

エレベーター試験塔は、ほとんどの場合、特別な名称が付けられていない。例えば、オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)のエレベーター試験塔は、様々な時代に建てられたものがあって、それらのいくつかは未だ現役もしくは現存するにもかかわらず(※4棟まで確認)、どれもが区別なく "Otis Test Tower(オーチス試験塔)" である。上海市にて2018年に竣工した1棟も、完成時に世界一、現在も世界第2位の高さを誇りながら、名称は単なる "Otis Test Tower(オーチス試験塔)" でしかない。そのようなことで、当セクションで用いる名称も、固有名称か通称があるもの以外は多分に説明的名称となっている。

詳細は「エレベーター試験塔の一覧(英語版)」を参照
※なお、上記の「エレベーター試験塔の一覧」も下記の記述も、世界のエレベーター試験塔を網羅したものではない。情報の不明瞭なもの、地上高の不明なもの、特筆性の低いものなどは、記述していない。また、特筆性があっても英語版に記述されていないものもある。

日立電梯(中国)有限公司(※日立グループ中国現地法人の一つ)所有。2020年(令和2年)竣工。地上高 273.8 m、地下深度 15.0 m、建物全高 288.8 m。中国広州市に所在。
史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本企業が建てた史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)[注 2]日立グループ史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。中国で最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。
  • オーチス試験塔 (Otis Test Tower, Shanghai 2018)
オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)が所有。2018年竣工。地上高 270 m。中国の上海市に所在。完成当時は史上最も背の高いエレベーター試験塔であった。
G1TOWER
フジテック エレベータ研究塔(2006年竣工)
ティッセンクルップ社が所有。2017年竣工。地上高 246 m。ドイツ南西部の町ロットヴァイル(英語版)に所在。正式名称は特に無く、メーカー名を冠して単に「ティッセンクルップ試験塔」と呼ばれることもある。ただし、ティッセンクルップ社のエレベーター試験塔はほかに何棟もあるので、こちらの名称では呼び分けに難がある。
日立製作所が所有。2010年(平成22年)竣工。地上高 213.5 m、地下深度 15 m、建物全高 228.5 m。日本の茨城県ひたちなか市に所在。
世界で7番目に背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本で最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本で9番目に高い塔(2021年時点)。日本企業が建てた2番目に背の高い塔(2021年時点)。
  • SOLAÉ  (Solae (Solae Test Tower)  
三菱電機が所有。2007年(平成19年)竣工。地上高 173.0 m。日本の愛知県稲沢市に所在。世界で10番目に背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。
  • 日立電梯の上海青浦工場エレベーター研究塔 [7]
日立電梯(上海)有限公司(※日立グループの中国現地法人の一つ)が所有[7]。2010年(平成22年)竣工[7]。地上高 172.6 m[7]。地上32階、地下2階[7]。中国の上海市青浦区にある青浦工業園区に所在[7]。完成当時、中国で最も背の高いエレベーター試験塔であった[7]。正式名称は特に無い。
フジテック所有。2006年11月竣工[10][8]。地上高 170 m[8]。日本の滋賀県彦根市にある同社の拠点「ビッグウィング」の中に所在[8]。正式名称は特に無く、ビッグウィングの「エレベータ研究塔」と呼ばれている[8]。展望台があるものの、通常は非公開[11]
  • オーチス芝山テストタワー
日本オーチス・エレベータ所有。1998年竣工。地上高 154.2 m。日本の千葉県芝山町に所在[12][13]
  • 華昇富士達電梯 エレベータ研究塔(華昇フジテック エレベータ研究塔)(Fujitec Test Tower, 2014) [9][14]
華昇富士達電梯有限公司(華昇フジテック。フジテックの中国現地法人。)所有[9]。2014年3月竣工[9]。地上高 151 m[14]。中国河北省廊坊市に所在[14]
東芝エレベータ府中工場エレベータ研究塔
フジテック所有。1975年9月竣工[15]。地上高 150 m[15]。往時は世界最大の高さと規模を誇っていた[15]。日本の大阪府茨木市に所在したが、2006年4月に本社が滋賀県彦根市へ移転し、そちらで後継の塔が改正したことを受けて、2008年9月22日から同年12月末までかけて解体された[15]
  • 東芝エレベータ府中工場エレベータ研究塔
東芝エレベータ所有。1997年竣工。地上高 135.65 m。日本の東京都府中市に所在。
  • ナショナルリフトタワー(英語版) (National Lift Tower  
エクスプレス・リフト・カンパニー (Express Lift Company) 所有。1982年竣工。地上高 127.5 m。イングランド中東部の都市ノーサンプトンに所在。完成当時は世界一背の高いエレベーター試験塔であった。
  • 日立製作所水戸工場エレベーター研究塔 (Hitachi Test Tower)
日立製作所が所有。1967年竣工。地上高 90 m。茨城県勝田市市毛(現・ひたちなか市市毛。G1TOWERの隣。)に所在。完成当時は規格外の高さを誇る世界一のエレベーター試験塔 "Hitachi Test Tower" として名が通っていた。
  • 日本エレベーター製造埼玉テストタワー
日本エレベーター製造が所有。1968年竣工。地上高 68 m。日本の埼玉県越谷市に所在。

脚注

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注釈

  1. ^ 例えば、2010年ギリシャキルキスに建てられたクリーマン社 (Kleemannの試験塔 (Kleemann Test Tower) は地上高 61 mであった。2013年に米国サウスカロライナ州フローレンスに建てられたオーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)のオーチス試験塔 (Otis Test Tower, Florence, SC) は地上高 46 mであった。
  2. ^ 仮の話として、日本国内で建設されていた場合、塔としての高さは2021年時点で以下の順位になる。第1位:東京スカイツリー(634 m。2012年竣工。東京都墨田区所在。)、第2位:東京タワー(日本電波塔)(332.6 m。1958年竣工。東京都港区所在。)、第3位:明石海峡大橋主塔(298.3 m。兵庫県神戸市と同県淡路市に各1基あり。)、第4位:H1 TOWER(273.8 m。2020年竣工。)。

出典

  1. ^ a b Gray (2002), p. 171.
  2. ^ 株式会社日立製作所、日立電梯(中国)有限公司 (2020年1月16日). “世界トップクラスの高さを有するエレベーター試験塔「H1 TOWER」が中国・広州の研究開発・製造拠点内に完成 < ニュースリリース”. 日立グループ. 2021年2月14日閲覧。
  3. ^ 288.8米!日立电梯“H1 TOWER”刷新电梯试验塔新高度 < 日立新闻”. 日立电梯(中国)有限公司 (2020年1月17日). 2021年2月14日閲覧。
  4. ^ 「日立、中国・広州にエレベーター試験塔を完成」『日本経済新聞日本経済新聞社、2020年1月16日。2021年2月14日閲覧。
  5. ^ 「日立電梯、広州にエレベーター試験塔」『NNA ASIA』株式会社エヌ・エヌ・エー、2020年1月17日。2021年2月14日閲覧。
  6. ^ 「日立の世界一高い“288.8m”エレベーター試験塔、中国・広州市で完成」『ITmedia News』アイティメディア株式会社、2020年2月12日。2021年2月14日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 株式会社日立製作所、日立電梯(中国)有限公司、日立電梯(上海)有限公司 (2010年5月24日). “中国で最も高い地上高172mのエレベーター研究塔が10月に上海で完成 超高速エレベーターや、高速・大容量のダブルデッキエレベーターなどを開発 < ニュースリリース”. 日立グループ. 2021年2月14日閲覧。
  8. ^ a b c d e “開発から生産までの一貫したモノづくりのコア拠点”. フジテック株式会社. 2021年2月14日閲覧。
  9. ^ a b c d e “沿革”. フジテック株式会社. 2021年2月20日閲覧。
  10. ^ a b “フジテックエレベータ研究塔”. 株式会社大林組. 2021年2月20日閲覧。
  11. ^ 宮内禎一「高いタワー、なぜ関西には建たないのか」『NIKKEI STYLE』日本経済新聞社日経BP、2012年3月24日。2021年2月20日閲覧。
  12. ^ “日本オーチス・エレベータ芝山事業所(芝山町)”. 日本経済新聞 (2018年7月4日). 2021年2月15日閲覧。
  13. ^ “日本オーチスが世界一高いエレベーター試験塔を完成”. ASCII.jp (1998年2月18日). 2021年2月15日閲覧。
  14. ^ a b c 富岡恒憲「フジテック、技術開発力強化で中国に新エレベータ研究塔を建設---中国で大規模化する建設需要に対応」『日経クロステック』日本経済新聞社日経BP、2012年4月10日。2021年2月20日閲覧。
  15. ^ a b c d e 『フジテック「エレベータ研究塔」解体工事のお知らせフィールド拠点「ビッグフィット」再構築に向けて』(プレスリリース)フジテック株式会社、2008年9月5日。https://www.fujitec.co.jp/common/fjhp/doc/top/document/announcement/260/080905-1.pdf2021年2月20日閲覧 
  16. ^ “フジテック大阪製作所跡地 ライオンズ茨木ニューシティA街区 2013年7月12日の建設状況”. 陽は西から昇る! 関西のプロジェクト探訪 - ココログ (2013年7月15日). 2021年2月20日閲覧。

参考文献

  • Gray, Lee Edward (2002). From Ascending Rooms to Express Elevators: A History of the Passenger Elevator in the 19th Century. Elevator World Inc. https://books.google.com/books?id=Qq4gVSkfnPcC&pg=PA171. "An important aspect of this effort was the use of what was perhaps the first elevator test tower built in the U.S. The tower, completed in 1888, was built as part of a major expansion of the factory in Yonkers and was used as the final test arena for the first Otis electric elevators manufactured for a specific customer." 
ISBN 1-886536-46-5, ISBN 978-1-886536-46-3, OCLC 928877827.

関連項目

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外部リンク

  • “Elevator test tower” (English). Elevatorpedia. Fandom. 2021年2月14日閲覧。