島嶼化

島嶼化(とうしょか、island rule)は進化生物学生態学生物地理学に関する学説の一つ。提唱者の名を取ってフォスターの法則(Foster's rule)とも言う。 島嶼生物学の要点となっている。

概要

生物の個体数は一時的・地域的には増大したり減少したりを繰り返しているが、通常は周辺から個体の流入や流出が起きるために中長期的に見ればほぼ一定に保たれている。しかし物理的に孤立した島では生物の流入や流出が起きないために、より厳しい競争が続いていると考えられる。この説は、島嶼部では利用可能な生息域や資源量が著しく制限されるため、生物が他の地域で見られるよりも巨大化するかあるいは矮小化するという説である。

大型の動物の場合は、その中でも小さな個体の方が代謝量の減少や性成熟が早いなどの点で島嶼地域では生存と繁殖に有利である。そのため体格が縮小するような選択圧が働くと考えられる。小さな動物では捕食者が少ないことで捕食圧が減り、捕食者の目を逃れるための小さな体を維持する必要がなくなる。そして一部の小型動物は中型動物のニッチへの適応放散が起きるなどが理由として考えられる。まれに、島嶼部では餌の量が少ないため大きく成長できないのだと説明されることがあるが、餌不足による生育不全とは異なる。

また淘汰圧として面白い例があり、クレタ島では小型化したシカが発見されているが、その個体は四肢を骨折しても暫く生き長らえていた事が判明した。通常であればシカのような動物は怪我をした途端に肉食動物の餌食となるため、これは島という環境が捕食者の脅威を低減させている事を示している[1]。もっとも全ての孤島がエデンの園だったわけではなく、バラウルやディノガレリックス、そして現生のコモドドラゴンなど、地域によっては島固有の捕食者も数多く確認されている(詳しくは個別の記事を参照されたし)。

1964年にJ・ブリストル・フォスターによってネイチャー誌に『島嶼における哺乳動物の進化(The evolution of mammals on islands)』として発表され[2]1967年にはエドワード・オズボーン・ウィルソンらによって拡張された『島嶼生物学の法則(The Theory of Island Biogeography)』が発表された[3][4]

島嶼化の例

テチス海の名残の一つであったパラテチス海(英語版)に棲息していたケトテリウム科ヒゲクジラの一種の「Cetotherium riabinini」も、水棲生物ではあるが、生息環境であった内陸部に位置していた海域が外洋と遮断されたことで広大なになり、パラテチス海の縮小に伴って矮小化を経たとされている。

例えば、ウランゲル島で発見されたマンモスは、他の地域のマンモスの推定体重が平均6トンなのに対して、2トンしかなかったと考えられ、しかも5000年という短期間で矮小化が起こったと推測される。

ヒトについても、インドネシアのフローレス島で発見されたチンパンジー並みの体格しか持たない原人(ホモ・フローレシエンシス、しばしばフローレス原人と呼ばれる)が島嶼化の影響によると考えられる。

逆に、小型の動物では体格の巨大化が見られる。例えばアカリスは、北米大陸のもので100g程度だが、オーストラリアで220g、マダガスカル島で230g、さらに小さな島では250gを超える物も見つかっている。フローレス島のネズミ(フローレスジャイアントネズミ Papagomys armandvillei)は一般的なドブネズミの2倍の大きさである。

ただし、同じ島でも巨大化した動物と巨大化していない小型動物が共存していることがあり、大型動物と違って小型動物は常に島嶼化の影響を受けるわけではない。他にもカバボアシカヘビカメレオン等で観察されている。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ Surviving in a predator-free environment: Hints from a bone remodelling process in a dwarf Pleistocene deer from Crete (Maria Rita Palombo:2016)
  2. ^ FOSTER, J. BRISTOL (1964). “Evolution of mammals on islands”. Nature 202: 234-235. doi:10.1038/202234a0. 
  3. ^ MacArthur, Robert H., and Edward O. Wilson (1967). The theory of island biogeography. Princeton University Press 
  4. ^ MacArthur, Robert H., and Edward O. Wilson (2001-4-1). The theory of island biogeography. Princeton Univ Pr; Reprint版. ISBN 978-0691088365. https://books.google.co.jp/books?hl=ja&lr=&id=a10cdkywhVgC&oi=fnd&pg=PR7&ots=Rg8VAEOgIC&sig=VkDkCUWwr6wdELiMbRi0acl7XpE#v=onepage&q&f=false 2015年12月22日閲覧。 

参考文献

関連項目

  • en:Island dwarfing (島嶼矮化)
  • en:Island gigantism (島嶼巨大化)

外部リンク

生物分布の法則

アレンの法則 寒い地域に住む個体群ほど突出部が小さくなる
ベルクマンの法則 寒い地域に住む個体群ほど体が大きくなる
コープの法則 体の大きさは時代の経過により大きくなる
深海巨大症 深海生物の体が大きくなる
ドロの法則 複雑な特性の喪失は不可逆である
アイヒラーの法則 寄生虫は宿主と共に変化する
エメリーの法則(英語版) 昆虫の社会寄生中はしばしばその宿主と同じ属である
ファーレンホルツの法則(英語版) 宿主と寄生虫の系統発生は一致する
フォスターの法則 島嶼部においては、大型動物は小さくなり、小型動物は大きくなる
ガウゼの法則 完全な競争者は共存できない
グロージャーの法則 寒い地域に住む個体群ほど体色が薄くなる
ホールデンの法則(英語版) Hybrid sexes that are absent, rare, or sterile, are heterogamic
ハリソンの法則(英語版) 寄生虫の大きさは宿主とともに変化する
ハミルトン則 相手の血縁度と相手が得る利益の積が行為者への生殖コストを上回ると遺伝子の頻度が増加する
ヘニッヒの発達則 分類学において、もっとも原始的な種は集団の領域の最も早い、中心部にある
ジャーマン・ベル原理(英語版) 動物の大きさとその食事の質の相関関係。大きな動物は質の低い食事ができる
ジョーダンの法則 水温と鰭条や椎骨の数との逆相関
ラックの原理 鳥は食べ物を提供できるだけの卵を産む
ラポポートの法則 低緯度地域ほど狭い地域に多くの生物種が生息する
レンチェの法則(英語版) 体の大きさの性的二形はオスが大きくなると大きくなり、メスが大きくなると小さくなる
ローザの法則(英語版) 集団は原始種の中の変化特性から高度な種の中の固定特性へ進化する
シュマルハウゼンの法則(英語版) 1つの側面で許容範囲にある個体群は、他の側面での小さな違いに対して脆弱である
ソーソンの法則(英語版) 底生海洋無脊椎動物の卵の数は緯度と共に減少する
ヴァン・ヴェーレンの法則 集団の絶滅の確率は、時間に関係なく一定である
フォン・ベーアの法則(英語版) 胚は一般的な形から始まり、だんだんと特殊な形になっていく
ウィリストンの法則(英語版) 生物の一部は数が減り、機能に特化する

  • 表示
  • 編集