カンピロバクター症

カンピロバクター症
別称 Campylobacter food poisoning – campylobacter enteritis[1]
概要
診療科 感染症
症状 下痢腹痛発熱
原因 カンピロバクター
合併症 メガコロン脱水敗血症ギランバレー症候群
治療 Supportive care,
Antibiotics (select cases)
予後 Usually self-limited
死亡数・ Infrequent
分類および外部参照情報
[ウィキデータで編集]

カンピロバクター症(カンピロバクターしょう、: campylobacteriosis)とは、カンピロバクター属菌の感染を原因とするヒトおよび家畜感染症。消化器系腸炎が主な症状で、平成27年度の統計では、ノロウイルスの次に報告患者数が多かった[2]。カンピロバクター属菌はグラム陰性らせん状桿菌水源となる河川などの汚染により発展途上国ではありふれた病気。キャンピロバクター症とも呼ばれる。

カンピロバクター症は、人のもっとも一般的な細菌性胃腸炎のひとつである[3]。 米国では、毎年推定200万件のカンピロバクター腸炎が発生しており、胃腸炎の症例の5〜7%を占めていた。2000年の英国では、カンピロバクターは検査室で検証された食中毒の全症例の77.3%を占めていた[4]

原因

ヒトでは1982年に食中毒菌として指定された[誰によって?] Campylobacter jejuniCampylobacter coli の感染によるものが大部分を占め、汚染された食品や水、保菌動物との接触により感染が成立する。C. jejuniC. coliコレラ毒素に類似したエンテロトキシンを生産し、エンテロトキシンにより食中毒症状を発症する。

具体的には、保菌動物や鳥類などのふんにより汚染源となった食品の摂取。肉(特に鶏肉[5])の生食や加熱不十分、飲料水、サラダ、未殺菌牛乳など。イヌネコなどのペットも保菌していることがある。2006年EU/EFSAの報告によれば、鶏肉の80%が汚染されている。汚染されても、臭いや味に変化はない[6]

また、潜伏期間が2~5日と比較的長いことから、原因となった食品が残されていないことが多く、原因が特定されない場合も多い。食中毒事例からの検出は、C. jejuniC. coli が90 %程度とされているが、現在の検出方法は C. jejuniC. coli 以外の検出に適していない事が原因である[7]

家畜

ウシでの原因菌は Campylobacter fetus であり、主に交尾感染により伝播する。

京都市保健福祉局の調査によれば、ウシの胆汁から Campylobacter jejuni が150検体中42検体 (28 %) から検出、全国調査では胆汁から35 %、肝臓から12 %の検出が報告されており、屠殺の際に胆嚢を破らない、牛レバー生食による感染の危険性が示されていた[8]

症状

成人の死亡例は希であるが、2歳以下では珍しくない[9]

  • ヒト
    • 発熱(軽い症状では38 ℃以下、重症では39 ℃以上の発熱になることもある)・激しい下痢(ときに粘血便)・強い腹痛が主であり、嘔吐を伴うこともある。腹痛は下痢よりも長期間継続。100個程度の菌でも発症[10]。たとえば、生の鶏肉からの一滴のしずくでも発症する[11]
    • サルモネラ症のような症状だが、サルモネラ症よりはやや軽いことが多い。
    • 潜伏期間は約2 - 7日で、2 - 5日で回復する。
    • 反応性関節炎が腸炎(胃腸炎大腸炎)治癒後にみられることがある。カンピロバクター腸炎のみならず、サルモネラ菌や赤痢菌による感染性腸炎後にも起こり得るが、カンピロバクター腸炎後が2.6 %と最も高いといわれている[12]
    • まれに、0.1 %くらいの頻度で、腸炎が完治してから10日後くらいにギランバレー症候群を併発することがある[13]。従って、腸炎症状が治った後の患者も注意を払う必要がある。
    • この他、中毒性巨大結腸症敗血症溶血性尿毒症症候群などを合併した症例もある。
  • ウシ

診断

ヒトでは糞便、ウシでは流産胎子の胃、盲腸内容物を材料として本菌の分離を行う。分離にはSkirrow培地やCCDA培地などの選択培地を使用する。ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR検査) による検出、同定も可能である。

糞便中には、非病原性のものも含め細菌が無数にいるが、症状から細菌性腸炎を疑った場合、便中に白血球がいること、カモメが翼をひろげたような形状のグラム陰性桿菌 (gull-wing shaped GNR)[14] の二点が確認できれば、臨床的にはほぼカンピロバクター感染症と診断してよい。

治療

患者の多くは自然治癒し重篤な症状に至ることは少なく、特別な治療を必要としないが、重篤化した場合稀にギラン・バレー症候群を引き起こすこともある。一方、敗血症や重篤な症状を呈した場合、対症療法と併せて抗生物質による薬物療法が必要となる。薬剤としては、マクロライド系が第一選択薬剤として推奨されている。しかし、自然耐性を示すセフェム系薬剤では、治療効果は望めない。また、ニューキノロン系に対する薬剤耐性菌が1994年頃から増加し、世界的な問題となっている[15]

食品衛生の観点から

60℃、1分程度の加熱でほぼ不活性化されることから、十分な加熱調理と肉類に触れた器具や手指の洗浄、生食する野菜と肉類の接触防止といった二次汚染の防止処置を行えば簡単に防ぐことが出来るが、飲食店や学校の調理実習等での食中毒事例が多く発生している。冷凍や「湯引き」などの方法では不活性化出来ない。厚生労働省は食鳥処理業者に対し2006年3月に、「一般的な食鳥処理場に於ける衛生管理総括表」を作成し指導を行った。なお、日本では2012年以降飲食店での生肉や牛レバーの食用提供が法規制され、生肉食が原因となる感染の機会は減少している。鶏刺しで伝統的に鶏肉の生食を行う鹿児島県や宮崎県は独自の基準を設けている[16][17]

関連項目

参考文献

  • 山内亮監修 『最新家畜臨床繁殖学』 朝倉書店 1998年 ISBN 4254460201
  • 高島郁夫、熊谷進編 『獣医公衆衛生学第3版』 文永堂出版 2004年 ISBN 4830031980

脚注

  1. ^ “Campylobacter infection: MedlinePlus Medical Encyclopedia” (英語). medlineplus.gov. 2019年7月20日閲覧。
  2. ^ 食中毒統計資料 厚生労働省
  3. ^ Moore, 2005Template:Citation not found
  4. ^ “Food Standards Agency”. food.gov.uk. 2018年4月5日閲覧。
  5. ^ 古茂田 恵美子1), 森田 幸雄1), 田村 真理 ほか、市販鶏ひき肉中の rcobacterCampylobacterSalmonella 汚染状況 『日本家政学会誌』 Vol.62 (2011) No.11 p.721-725, doi:10.11428/jhej.62.721
  6. ^ 微生物(第18回)・ウイルス(第11回)合同専門調査会資料 資料2-1 リスクプロファイルのまとめ 食品安全委員会
  7. ^ 三澤尚明、「話題の感染症 カンピロバクター感染症 (PDF) 」 モダンメディア 2005年3月号(第51巻3号)
  8. ^ 京都市と畜場における牛の胆汁及び肝臓のカンピロバクター汚染実態調査 京都市保健福祉局
  9. ^ ンピロバクターについて (ファクトシート) 厚生労働省検疫所 FORTH
  10. ^ カンピロバクター食中毒 愛知県衛生研究所
  11. ^ カンピロバクター感染症について 横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課
  12. ^ Townes JM, et al. Ann Rheum Dis.2008;67:1689-6.
  13. ^ Nachamkin I, et al. Clin Microbiol Rev.1998;11:555.
  14. ^ メリーランド大学の病原微生物学テキスト
  15. ^ カンピロバクター感染症 国立感染症研究所 感染症の話 2001年第6週
  16. ^ 生食用食鳥肉等の安全確保について鹿児島県2018年12月13日付
  17. ^ 生食用食肉の取扱いについて宮崎県2017年3月30日付

外部リンク

  • 知って防ごう カンピロバクター食中毒 東京都福祉保健局
  • カンピロバクター食中毒予防について(Q&A) 厚生労働省
  • カンピロバクター食中毒 愛知衛生研究所
腸管感染症
病原体細菌
病原体(ウイルス
病原体(原虫
関連疾患
カテゴリ カテゴリ
家畜伝染病
言葉
組織・施設等
協定・法律等

SPS協定(世界貿易機関) - OIEコード(国際獣疫事務局) - 家畜伝染病予防法農水省) - 狂犬病予防法厚労省) - 口蹄疫対策特別措置法 - Category:畜産関連法規

 
世界の旗 国際獣疫事務局 リスト疾病
複数種
ウシ
ヒツジヤギ
ウマ
ブタ
トリ
ウサギ
ハチ

アカリンダニ症 - アメリカ腐蛆病 - ヨーロッパ腐蛆病 - スモール・ハイブ・ビートル症 - ミツバチトゲダニ症 - バロア症

魚類
軟体動物

Bonamia ostreae感染症 - Bonamia exitiosus感染症 - Marteilia refringens感染症 - Mikrocytos roughleyi感染症 - Perkinsus marinus感染症 - Perkinsus olseni感染症 - Xenohaliotis californiensis感染症

甲殻類

タウラ症候群 - 白点病 - イエローヘッド病 - バキュロウイルス・ペナエイによる感染症 - モノドン型バキュロウイルスによる感染症 - 伝染性皮下造血器壊死症 - ザリガニ病

その他
 
法定伝染病
届出伝染病

ブルータング - アカバネ病 - 悪性カタル熱 - チュウザン病 - ランピースキン病 - 牛ウイルス性下痢 - 牛伝染性鼻気管炎 - 牛伝染性リンパ腫 - アイノウイルス感染症 - イバラキ病 - 牛丘疹性口内炎 - 牛流行熱 - 類鼻疽 - 破傷風 - 気腫疽 - レプトスピラ症 - サルモネラ症 - 牛カンピロバクター症 - トリパノソーマ症 - トリコモナス症 - ネオスポラ症 - 牛バエ幼虫症 - ニパウイルス感染症 - 馬インフルエンザ - 馬ウイルス性動脈炎 - 馬鼻肺炎 - ヘンドラウイルス感染症 - 馬痘 - 野兎病 - 馬伝染性子宮炎 - 馬パラチフス - 仮性皮疽 - 小反芻獣疫 - 伝染性膿疱性皮膚炎 - ナイロビ羊病 - 羊痘 - マエディ・ビスナ - 伝染性無乳症 - 流行性羊流産 - トキソプラズマ症 - 疥癬 - 山羊痘 - 山羊関節炎・脳炎 - 山羊伝染性胸膜肺炎 - オーエスキー病 - 伝染性胃腸炎 - 豚テシオウイルス性脳脊髄炎 - 豚繁殖・呼吸障害症候群 - 豚水疱疹 - 豚流行性下痢 - 萎縮性鼻炎 - 豚丹毒 - 豚赤痢 - 鳥インフルエンザ - 鶏痘 - マレック病 - 鶏伝染性気管支炎 - 鶏伝染性喉頭気管炎 - 伝染性ファブリキウス嚢病 - 鶏白血病 - 鳥結核 - 鳥マイコプラズマ症 - ロイコチトゾーン症 - あひるウイルス性肝炎 - あひるウイルス性腸炎 - 兎出血病 - 兎粘液腫 - バロア症 - チョーク病 - アカリンダニ症 - ノゼマ症

典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
  • イスラエル
  • アメリカ
  • 表示
  • 編集
スタブアイコン

この項目は、獣医学に関連した書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています(P:生物学/PJ:獣医学)。

  • 表示
  • 編集