堅守速攻

堅守速攻(けんしゅそっこう)とは、サッカーバスケットボールにおけるカウンターアタックからの派生用語。ポゼッションフットボールと対比されることが多い。経営においても引用されることがある。低迷等から抜け出す弥縫策として有効的だが、強市場や強者相手では競合しにくいデメリットも存在し、スポーツではエレベータークラブの原因となる。

概要

[1]

サッカー

サッカーにおいて、堅守速攻という用語は日本独特の表現であり、世界では堅守速攻の総称として「カテナチオ(Catenaccio)」の用語が用いられている。

詳細は「カテナチオ」を参照

防御と同時に攻撃に移ることや攻撃の勢いを逆に利用して反撃することをいい、堅く守り(堅守)ボールを奪ったら相手チームの守備の態勢が整わないうちに速攻(カウンター)を仕掛ける戦法である。カウンターアタックからの派生用語で元々は軍事用語。弱者と強者が戦う場合は弱者は強者にボールを支配されやすいが弱者は守りを固めて失点せず隙を突いてカウンターを決めて強者に勝利することが可能であり、弱者の戦い方として用いられることが多い。リードしているチームが逃げ切るために守りを固めてカウンターを狙うこともある。カウンターは相手ゴール前が少人数のためスペースが多く、相手ディフェンダーが前掛りになっていて守備陣形が整っていなくディフェンスの裏を狙いやすく崩しやすい。堅守速攻では基本的にほとんどの選手が守備に参加する。

カウンターにはロングカウンターとショートカウンターが存在する。

  • ロングカウンターは日本ではカテナチオのことであり、リトリート(後方に引いて自陣付近の守備を固めること)により失点しないように守備を固めて自陣に閉じこもり、低い位置でボールを奪いロングボールなどで反撃するカウンター。
  • ショートカウンターはハイプレス(前線からの激しいプレス)によってハイライン(高い位置)でボールを奪い反撃するカウンター。ロングカウンターはショートカウンターと比較して引いて守る相手には得点しにくいが体力消耗が少なく失点しにくい。ショートカウンターはロングカウンターと比較して体力消耗が激しく味方が前掛かりになるため逆にカウンターを受けやすいが相手にプレッシャーを与えやすく得点しやすい。

トップにはスピードや個人能力が要求される。他の選手が自陣を守備している時トップは守備をせずカウンター発動に備える。ウイング2人のうちの1人は守備に参加しボールと逆サイドのもう1人はトップと同じくカウンター発動に備える。カウンターは手数が少なく縦に速いパスにより時間をかけず攻めることが重要であり、シュートに至るまでのスピードや攻守切り替えの速さが命であり、ボールを奪った瞬間に一気にスピードをマックスに上げ、カウンター発動からシュートに至るまで数秒でなければならない。長谷川健太はボールを奪った後に特に超スピードで一気呵成に速攻を仕掛けて得点する電光石火のようなカウンターを「ファストブレイク」(バスケットボールから引用した用語)と呼んでいる[2][3][4]。堅守速攻にはキック・アンド・ラッシュという戦術があり、ボールを奪った後ひたすらロングパスで一気に前線にボールを送ることを繰り返す戦術である。また堅守速攻にはウノゼロの美学(1点奪った後に自陣に鍵を掛けるように堅く守り、失点を抑えて逃げ切る戦術)という用語がある。自陣ゴール前に多くの選手を配置することで失点を抑え、手堅く勝利することや引き分けるための堅守を徹底する戦術をパーク・ザ・バスという。

逆に自身が相手のカウンターを受ける場合はボールを奪われたら素早くプレスに転じ、良いロングパスを出させないようにし、ロングパスを通された場合には無理にボールを奪いに行かず抜かれないように守り、ディレイ(時間稼ぎをして味方の戻りを待つこと)を行うことが対策となる。

2022 FIFAワールドカップでは日本代表はスペイン戦にて5-4-1の可変カテナチオ堅守速攻を使用し[5][6][7][8][9]、パス1000回を駆使したスペイン相手に僅かシュート6回の堅守で勝利し[5]、日本代表がスペイン代表に勝利したのは史上初となった[5][6][7][8][9]2023 FIFA女子ワールドカップでも女子日本代表は堅守速攻の戦い方で意思統一し、相手にボール保持される事を割り切り、一滴の水も漏らさないような鉄壁の守備ブロックを敷いてカウンターを徹底し、快挙を果たした[10]

スタイルを堅守速攻に転換して再建したチーム

  • 矢板中央高等学校サッカー部は不調の時期が続いた時にポゼッションフットボールへ転換しようとしていたが結果が出ず、2017年に監督 高橋健二の下、原点である堅守速攻へ回帰し守備を徹底して鍛え上げて勝てるチームを作り、チームを躍進させた[11]。また選手をフットサル大会へ出場させたことにより能力を強化させた[11]
  • 東海大学サッカー部監督である今川正浩は2021年の8年ぶりの監督復帰時に弱体化していたチームを堅守速攻に転換させたことで再建を果たした[12]。相手がボールを持てばポジション問わずプレスをかけ続ける献身的な守備や空いたスペースを埋めるコンパクトネスを重視し、序盤から走り続けるスタミナを強化し、走り込みとフィジカル強化を徹底した[12]。その結果対戦相手チームに17-0の大差で大勝するなど勝利を続け、2部との入れ替え戦も制し、「#atarimaeni CUP」では優勝するなど破竹の勢いで快挙連覇を果たした[12]
  • 昇格請負人と呼ばれている小林伸二は多くのJリーグクラブを堅守速攻で昇格させた[13]
  • ペリクレス・シャムスカはプロ選手としての経験がない監督であるが、1点取って走り切って勝つスタイルによって不調のチームを蘇らせる事から采配が「シャムスカ・マジック」と呼ばれている[14][15][16]
  • 長谷部茂利はポゼッションフットボールで不調だったアビスパ福岡の監督に2020年に就任し、堅い守備をベースにした堅守速攻で1年でJ1昇格を果たした[17][18]
  • 吉田謙は2020年よりブラウブリッツ秋田の指揮を執り、監督就任早々に守備の整備に着手し、複雑な戦術は用いずにシンプルな戦い方を志向し、粘り強い徹底した堅守と縦に速い攻撃により28戦連続無敗を記録し、21勝10分3敗の圧倒的な成績でJ3優勝・J2昇格させた[19][20][21]
  • FC町田ゼルビアはJ2初昇格から11年後に堅守速攻を徹底した事でJ1昇格を果たした[22]。2022年12月にサイバーエージェント社長である藤田晋の代表取締役社長兼CEO就任によって町田の潮目が変わり、青森山田高等学校で長年監督を務めた黒田剛が監督、金明輝がヘッドコーチに就任し、新加入選手は20名になり、フロントから現場まで体制が大きく変わった[22]。町田は体制を一新させ、黒田は前年度までの全ての失点シーンの映像を徹底的に分析し、守備から立て直しを図り、基礎とロングカウンター型堅守速攻を徹底し[23][24]、わかりやすく伝わる言葉で徹底的に原理原則をチーム全体に叩き込んだ。その結果町田は初のJ1昇格を果たした[22]
  • 2022年途中から東京ヴェルディの監督に就任した城福浩は、クラブ創立以来一貫して続いていた(とりわけロティーナが監督を務めていた2017-18年頃は特に顕著であった)ポゼッションフットボールを廃止し、堅守速攻型のサッカーに戦術を転換。翌2023年にはJ2全18クラブ中最少失点を記録するなど堅実な守備を展開させ、16年振りのJ1復帰に導いた[25][26]

経営における堅守速攻

経営においても堅守速攻という言葉が使用されることがあり、一般的にいえば支出を抑えてキャッシュを保持したり無駄を排除したり(堅守)、同時に手堅く商品開発・販売を行なっていく(速攻)ことの代用である。伊木隆司は中小企業にフィットする堅実経営はサッカーの攻撃的なブラジルではなくスイスやスウェーデンのような堅守徹底であると説いている[27][28]。大企業は攻撃が得意であり、商品開発・市場や需要の調査・マーケティング手法の開発などが独自だが、巨大であるということは同時に管理領域が広くなるということでもあり、管理が全体に行き届かずどこかに綻びが生じ、失態や不祥事などが発覚し、そこを中小企業に狙われてカウンター攻撃をされたり、驕って守備を疎かにした大企業は破綻になったりして崩れていくという面もあるとされている[27]。一方で中小企業は攻撃力が低いが、守りが堅い企業は無駄を排除し、財務管理・キャッシュ管理を徹底していて不景気でも持ち堪え、数年の構想を練りながら守りを固め、慎重に時機を見計らい、いざという時に速攻を仕掛ける負けない経営が求められる[27]

ドン・キホーテは「創業以来、ドン ・ キホーテグループは「堅守速攻(けんしゅそっこう : 城・陣などを敵から堅く守り、相手に隙を与えず機敏に攻撃すること)」に 徹することで、不況やデフレ環境下にあっても柔軟な変化対応力を発揮し、 逆境をチャンスに変えて安定的な成長を継続してきました。」と公表している[29]

ラクスルの西田真之介はバックオフィスとして堅守速攻の姿勢が大事であると説いており、会社が速攻を行うにはリスク管理やマネジメントなどの堅守が重要であり、会社や事業部側がいつでも攻められるような体制作りを目指していると述べている[30][31]。またバックオフィスの定型業務を効率化し、常に事業部門側がコミュニケーションを取りやすい状態にしておくことで日々生じる様々なリスクも即座に潰せるという[30][31]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ “カウンターアタックとは?サッカーでの戦術的有効性について考える”. Activel. 2021年12月26日閲覧。
  2. ^ “清水を変えた監督、長谷川健太の信念=堅守を築き上げたリアリスト”. スポーツナビ (2023年11月1日). 2023年11月2日閲覧。
  3. ^ “速いぞ、早いぞ長谷川トーキョー。多摩川クラシコはマンC対リバプール。(北條聡)”. Number Web - ナンバー. 2021年12月26日閲覧。
  4. ^ “FC東京、2年連続“失速”で晒した選手層の不安 史上最高2位も…「低迷危機」と紙一重”. www.football-zone.net (2019年12月12日). 2023年11月2日閲覧。
  5. ^ a b c “W杯史上、究極のジャイアントキリングを達成した日本の驚くべきデータ。パス1000本を駆使したスペイン相手に、シュートわずか6本で勝ちきる|サッカー代表|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva”. web.archive.org (2022年12月4日). 2022年12月5日閲覧。
  6. ^ a b “【W杯】本田圭佑、スペイン戦のスタメンに見解 「3バックというより5バック」「守備的と見せかけて攻撃につなげやすい」 | フットボールゾーン”. web.archive.org (2022年12月5日). 2022年12月5日閲覧。
  7. ^ a b “【日本かく戦え】5バックでワンチャンスに懸ける― スポニチ Sponichi Annex サッカー”. web.archive.org (2022年11月29日). 2022年12月5日閲覧。
  8. ^ a b “「“ミトマの1ミリVAR”を元審判が神レベル解説」ブラジルの“日本vsスペイン報道”がスゴい+やっぱりカオス「忍術ナルト魂だ!」(2/3) - サッカー日本代表 - Number Web - ナンバー”. web.archive.org (2022年12月4日). 2022年12月7日閲覧。
  9. ^ a b “堅守速攻で勝ち取った「ドーハの奇跡」 世界トップ相手にボール保持の理想は捨てた森保監督の戦術眼:東京新聞 TOKYO Web”. web.archive.org (2022年12月8日). 2022年12月8日閲覧。
  10. ^ 千葉修宏. “【女子W杯】堅守速攻でスペイン撃破の陰に池田太監督の求心力 前戦から5人変更もプレー徹底 - 日本代表 : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2023年8月1日閲覧。
  11. ^ a b “矢板中央高校を変えた要因 堅守速攻に原点回帰、フットサル大会へ出場”. ライブドアニュース (2018年1月7日). 2021年10月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月10日閲覧。
  12. ^ a b c “堅守速攻を武器に大学日本一!!”. 東海大学新聞 (2021年3月1日). 2021年4月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月10日閲覧。
  13. ^ “J3北九州 4季ぶりJ2復帰!“昇格請負人”小林監督が1年で導く - スポニチ Sponichi Annex サッカー”. スポニチ Sponichi Annex. 2023年11月2日閲覧。
  14. ^ “シャムスカ体制の「誤算」を考える。土台なきジュビロが陥ったJ2の罠。(寺野典子)”. Number Web - ナンバー. 2023年11月2日閲覧。
  15. ^ “2008年Jリーグ。鹿島が2連覇、千葉は7分間で奇跡のJ1残留。北京五輪では…【Jリーグ平成全史(16)】”. フットボールチャンネル (2019年5月1日). 2023年11月2日閲覧。
  16. ^ “シャムスカは今もトリニータを愛す。西川、森重、清武にファンとの逸話。(沢田啓明)”. Number Web - ナンバー. 2023年11月2日閲覧。
  17. ^ Inc, SEESAW GAME (2021年2月23日). “【J1展望】クラブ初のJ1残留を目指す今季…カギは堅守速攻スタイルのブラッシュアップ|福岡”. サッカーキング. 2023年11月2日閲覧。
  18. ^ “負けないアビスパ福岡。堅守速攻+αの強み◎Jを味わう第11回 - サッカーマガジンWEB”. soccermagazine.jp. 2023年11月2日閲覧。
  19. ^ “BB秋田、開幕7連勝支える堅守速攻 仲間助ける走りに注目”. 秋田魁新報社. 2023年11月3日閲覧。
  20. ^ “BB秋田・2年目のJ2(上)戦術 堅守速攻、さらに磨き”. 秋田魁新報社. 2023年11月3日閲覧。
  21. ^ “前人未到の28戦連続無敗でJリーグ最速優勝 BB秋田の強さを支える独自のスタイルとは?(宇都宮徹壱) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2023年11月2日閲覧。
  22. ^ a b c “FC町田ゼルビアのサッカーはJ1でも通用するか シンプルな戦い方を高い強度で徹底した黒田剛監督の手腕”. 集英社 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva (2023年10月24日). 2023年11月2日閲覧。
  23. ^ “FC町田ゼルビア 2023 チームスタイル[攻撃セットプレー | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB]”. www.football-lab.jp. 2023年11月2日閲覧。
  24. ^ 清水秀彦 (2023年5月24日). “【そういうことだろ~】高校サッカーの戦術が通用 黒田剛監督のJ2町田の快進撃は素晴らしいが…なんだかなぁ J1昇格なら柴崎岳獲得の可能性も(1/2ページ)”. zakzak:夕刊フジ公式サイト. 2023年11月2日閲覧。
  25. ^ 日本放送協会 (2023年12月2日). “サッカー 東京ヴェルディ J1復帰へ 城福監督「ここからがスタート」 | NHK”. NHKニュース. 2023年12月3日閲覧。
  26. ^ 一色伸裕 (2023年12月3日). “東京Vが16年ぶりにJ1に帰ってくる! 城福監督が男泣き「もう一度、日本一を争えるチームに」”. サンスポ. 2023年12月3日閲覧。
  27. ^ a b c “サッカーと中小企業経営”. 伊木会計事務所のきまぐれ日誌. 2021年12月26日閲覧。[信頼性要検証]
  28. ^ “サッカーと中小企業経営”. 伊木会計事務所のきまぐれ日誌 (2006年6月23日). 2021年12月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月31日閲覧。[信頼性要検証]
  29. ^ “『ANNUAL REPORT 2012 Pioneering in Retail Innovation 年次報告書2012』株主・投資家の皆さまへ 3つの重点戦略について”. ドン・キホーテ. 2022年12月26日閲覧。
  30. ^ a b Special, 日経ビジネス電子版. “成長企業はバックオフィスにも秘訣あり「堅守速攻」を実現する仕組みとは? - 日経ビジネス電子版 Special”. special.nikkeibp.co.jp. 2021年12月26日閲覧。
  31. ^ a b “週1振り返りで仕組み改善し、バックオフィスの社員が事業に伴走できる時間を創出。堅守速攻、組織構築の舞台裏 | クラウド会計ソフト freee”. 会計ソフト freee (フリー) | 無料から使えるクラウド会計ソフト (2019年10月8日). 2021年12月26日閲覧。