田楽

曖昧さ回避 この項目では、伝統芸能について説明しています。
  • 串焼き料理については「味噌田楽」をご覧ください。
  • 煮込み料理については「おでん」をご覧ください。
  • 沖縄島で作られるタイモを使用した料理の田楽(ディンガク)については「タイモ#各地におけるタイモとその料理」をご覧ください。
  • 愛知県に存在した田楽(たらが)村については「田楽村」をご覧ください。
東京・王子田楽(2014年)

田楽(でんがく)は、平安時代中期に成立した日本伝統芸能。楽と躍りなどから成る。「田植えの前に豊作を祈る田遊びから発達した[1]」「渡来のものである」などの説があり、その由来には未解明の部分が多い。

概要

もともと耕田儀礼の伴奏と舞踊だったものが仏教や鼓吹と結びついて一定の格式を整え、芸能として洗練されていった[2]。やがて専門家集団化した田楽座は在地領主とも結びつき、神社での流鏑馬相撲、王の舞などとともに神事渡物の演目に組み入れられた[2]

中世以来、各地に伝わる民俗芸能の田楽をまとめると、共通する要素は次のようになる[2]

  • びんざさらを用いる
  • 腰鼓など特徴的な太鼓を用いるが、楽器としてはあまり有効には使わない
  • 風流笠など、華美・異形な被り物を着用する
  • 踊り手の編隊が対向、円陣、入れ違いなどを見せる舞踊である
  • 単純な緩慢な踊り、音曲である
  • 神事であっても、行道の工程が重視される
  • 王の舞、獅子舞など、一連の祭礼の一部を構成するものが多い

歴史

文献史料に残された田楽と、今日に伝わる郷土芸能の田楽には開きがあり、時期によってその中身に変化があったと考えられる[2]。田楽の文献史料では992年の『和泉大鳥社流記帳』が最も古いとされるが、史料的にやや疑問がある。次いで古い記録には、998年の『日本紀略』に京都松尾神社の祭礼で山崎の津人が田楽を演じたという記録がある。

平安時代

平安時代に書かれた『栄花物語』には田植えの風景として歌い躍る「田楽」が描かれており、大江匡房の『洛陽田楽記』によれば、永長元年(1096年)には「永長の大田楽」と呼ばれるほど京都の人々が田楽に熱狂し、貴族たちがその様子を天皇にみせたという。平安後期には寺社の保護のもとに田楽座)を形成し、田楽を専門に躍る田楽法師という職業的芸人が生まれた。

草創期の田楽は御霊会との結びつきが強く[2]、仏事に演じられる舞楽に対して卑俗な演芸と見られていた様子が、比叡山の教円座主の若い頃の逸話として『今昔物語』に「近江国矢馳郡司堂供養田楽語第七」として残されており、当時の田楽の様子も活写されている。

鎌倉・室町時代

鎌倉時代にはいると、田楽に演劇的な要素が加わって田楽能と称されるようになった。鎌倉幕府執権北条高時は田楽に耽溺したことが『太平記』に書かれており、室町幕府の4代将軍足利義持増阿弥の芸を好んだことが知られる。田楽ないし田楽能は「能楽」の一源流であり、「能楽」の直接の母体である猿楽よりむしろ高い人気を得ていた時代もあった。

田楽は、大和猿楽の興隆とともに衰えていったが、現在の(猿楽の能)の成立に強い影響を与えた。能を大成した世阿弥は、「当道の先祖」として田楽から一忠(本座)、喜阿弥(新座)の名を挙げている。

近世以後

江戸時代には一部の故実家や国学者が関心を向ける程度で、芸能としてはほぼ忘れ去られた存在となっていたが、大正末から戦後にかけて興った芸能史・民俗芸能研究とその野外調査の結果、日本各地の神事祭礼のなかに残された田楽の記録が集積された。

郷土芸能

現在までに、びんざさらを使う躍り系の田楽と、擦りささらを使う田はやし系の田楽とに分かれてきた。躍り系の田楽には、豊穣を祈念するものと、魔事退散を祈念するものとがある。

文化財指定

2009年現在、以下の24件が民俗芸能の田楽の分類で、重要無形民俗文化財に指定されている(指定日 都道府県)。このうち秋保の田植踊および那智の田楽ユネスコ無形文化遺産に登録されている。

脚注

  1. ^ 「年中行事事典」p508 1958年(昭和33年)5月23日初版発行 西角井正慶編 東京堂出版
  2. ^ a b c d e 西岡 1994, pp. 149–184.

参考文献

  • 西岡芳文「田楽:その起源と機能を探る」『職人と芸能』、吉川弘文館、1994年、ISBN 464202705X。 

関連項目

日本の音楽
伝統音楽
雅楽
近現代
能楽
仏教音楽
浄瑠璃
歌いもの
民謡俗謡
語りもの
器楽
音曲
祭礼音楽
その他
近代音楽
現代音楽
大衆音楽
戦前
戦後
チャート
レコード・レーベル
"Big 10"
その他
  • メジャー・レーベルの一覧
  • インディーズ・レーベルの一覧(en)
ミュージシャン
  • 日本のミュージシャン
音楽配信
関連項目
詩歌
芸道
舞踊
語りもの
音曲
演劇
演芸
座敷
工芸
カテゴリ カテゴリ
 
主な演目

脇能(初番目物)

右近 - 老松 - 大社 - 賀茂 - 呉服 - 逆矛 - 白髭 - 西王母 - 高砂 - 道明寺 - 白楽天 - 氷室 - 放生川 - 弓八幡 - 養老

二番目物(修羅物

敦盛 - 箙 - 清経 - 実盛 - 田村 - 巴 - 朝長 - 通盛 - 八島 - 頼政

三番目物(鬘物

井筒 - 雲林院 - 小塩 - 姨捨 - 大原御幸 - 杜若 - 源氏供養 - 西行桜 - 関寺小町 - 千手 - 草子洗 - 谷行 - 東北 - 野宮 - 羽衣 - 芭蕉 - 檜垣 - 夕顔 - 遊行柳 - 熊野 - 楊貴妃 - 吉野天人

四番目物(雑物

葵上 - 阿漕 - 蘆刈 - 安宅 - 梅枝 - 景清 - 花月 - 鉄輪 - 通小町 - 邯鄲 - 黒塚 - 高野物狂 - 桜川 - 三笑 - 自然居士 - 接待 - 土車 - 天鼓 - 東岸居士 - 道成寺 - 鳥追舟 - 錦木 - 鉢木 - 百万 - 船橋 - 松虫 - 三井寺 - 盛久

五番目物(切能

鵜飼 - 大江山 - 春日竜神 - 熊坂 - 項羽 - 石橋 - 舎利 - 鍾馗 - 猩々 - 是界 - 殺生石 - 第六天 - 当麻 - 土蜘蛛 - - 鵺 - 野守 - 紅葉狩 - 山姥

作者
分類

五番立 - 現在能 - 夢幻能 - 劇能 - 風流能 - 現行演目 - 非現行演目(廃曲) - 復曲 - 新作能

 
舞台
上演形式

半能 - 仕舞 - 舞囃子 - 素謡 - 一調 - 一管 - 闌曲
薪能 - 勧進能 - 劇場能 - 付祝言 - 小書

舞台

- 小鼓 - 大鼓 - 太鼓 - 地謡 - 能面 - 能装束 - 作リ物 - 小道具 - 能楽堂 - 鏡板 - 橋掛り

技法・小段

働事 - 舞事 - 乱拍子

思想・理念

序破急 - 幽玄 - 初心不可忘 - 離見の見

 
歴史・人物
先行する芸能

神楽 - 猿楽 - 翁舞 - 咒師猿楽 - 延年 - 田楽 - 曲舞 - 乱舞 - 修二会 - 春日大社

各地の猿楽

大和猿楽 - 大和四座 - 宇治猿楽 - 近江猿楽 - 丹波猿楽 - 伊勢猿楽 - 摂津猿楽 - 長谷猿楽

南北朝期

一忠 - 桟敷崩れの能 - 喜阿弥 - 観阿弥 - 犬王 - 金剛権守 - 金春権守

室町前期
室町中・後期
織豊・江戸期

金春安照 - 下間少進 - 手猿楽 - 太閤能 - 喜多七太夫長能 - 観世身愛 - 観世元章 - 明和の改正

近代

梅若実 (初世) - 宝生九郎知栄 - 櫻間伴馬 - 三須錦吾 - 能楽社 - 芝能楽堂 - 梅若万三郎 (初世) - 梅若実 (2世) - 観梅問題 - 野口兼資 - 喜多六平太 (14世) - 宝生新 - 観世華雪 - 川崎九淵 - 櫻間弓川 - 橋岡久太郎 - 幸祥光 - 喜多実 - 能楽の海外公演

現代
地方の能楽

年預 - 黒川能 - 京観世 - 宇佐神宮御神能 - 佐渡島の能楽 - 加賀の能楽

伝書
世阿弥

花伝(風姿花伝) - 花習内抜書 - 音曲口伝 - 花鏡 - 至花道 - 二曲三体人形図 - 曲付次第 - 風曲集 - 三道 - 遊楽習道風見 - 五位 - 九位 - 六義 - 拾玉得花 - 五音曲条々 - 五音 - 習道書 - 世子六十以後申楽談儀 - 夢跡一紙 - 却来華 - 金島書

金春禅竹

歌舞髄脳記 - 五音三曲集 - 六輪一露記 - 六論一露記注 - 二花一輪 - 六輪一露秘注 - 幽玄三輪 - 至道要抄 - 明宿集

金春禅鳳

毛端私珍抄 - 反古裏の書 - 禅鳳雑談

その他

八帖花伝書 - 実鑑抄系伝書 - 四座役者目録 - 作者付 - 謡抄

謡本(能本)

世阿弥自筆能本 - 車屋本 - 光悦本 - 元和卯月本 - 山本長兵衛本 - 内百番 - 外百番 - 明和改正謡本 - 観世流改訂謡本 - 観世流大成版謡本

研究
 
関連項目
能楽に関連する項目

能楽 - 狂言 - - 謡曲 - 能楽師 - 能楽協会 - Template:能楽作品

その他の伝統芸能など
 
関連するカテゴリ
事物

能の演目 - 能の面 - 能の伝書 - 能楽堂
狂言 - 日本の伝統芸能 - 舞台芸術 - 日本の演劇

能演目の作者 - 能役者 - 世阿弥 - 研究者 - 能に関連する人物

カテゴリ カテゴリ
典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
  • 日本