盗掘

盗掘(とうくつ)とは、一般に、正当な権利がないにもかかわらず土地(私有地・公有地を問わず)を掘削し、そこから得られた財物(埋蔵物、動植物など)を窃取する行為である。とくに墓を荒らす場合は墓荒らしという。

概要

何が正当な「発掘」または「採掘」で、何を基準に「盗掘」とするかは、その時代地域それぞれの倫理観、価値観、宗教観、地位や立場によって異なった見方がされることがある。たとえば、20世紀初頭のエジプトにおいてイギリスナチス政権下のドイツが盛んに遺跡の発掘調査を行って、出土品を持ち去ったことについて、現地エジプトの国民から見れば、自国の貴重な文化財を持ち帰られたことから盗掘であると判断することもできる。遺跡を掘り探し出土品を売り捌くことで生計を立てているにおいては、盗掘ではなく「仕事」であると主張されるであろうが、実際には貴重な文化財を破壊する行為であり、特に墓などの遺跡の本来の状態、被葬者や副葬品の配置からわかる当時のものの考え方など形のない考古学的に重要な情報を破壊してしまう行為である。このことが盗掘のもっとも許しがたい行為と考えられ、根本的な対策として、盗掘者の生計をたてさせている趣味的な古美術品の購入者は、盗掘品を購入するのをやめるべきであり、また、盗掘者を生み出す土壌やその国の経済状態などの改善が図られないかぎり、問題は解決しない。

他、大規模な化石が地層内から発見された場合などにも、盗掘されるケースが各地で相次いでいる。例として、日本最古級の哺乳類や、白亜紀恐竜・『丹波竜』などの化石が相次いで発見された「篠山層群」(兵庫県丹波篠山市)でも、2009年9月頃に、化石狙いと見られる盗掘跡が見つかった。問題点としては、明らかな盗掘行為と見られる場合であっても、各自治体の条例では、盗掘行為を禁じてはいても、盗掘者に対して原状回復を求めることしかできず、また、一般者の立ち入りを規制することができないケースがほとんどであるため、各自治体は、対応に苦慮しているのが現状である[1]

希少植物・希少動物の卵

公園等の公有地に移植された花卉類を持ち去る行為などが身近な「盗掘」である。売買や偏執的愛好家などによる窃取については理由が明らかであるが、ウミガメカブトガニなど「食べるつもりなのかペットにしたいのか、自宅近くの浜辺にでも埋めるつもりなのか、子供おもちゃのように与えられるまでは欲しがるが、取得すればすぐに飽きて捨てるような幼稚な精神大人達なのか」と関係者の頭を悩ませる行為も多い。

野生ランや高山植物などの希少な植物をねらう盗掘も多い。群落全てを狙うような大規模な場合もあり、一部の希少種ではかなりの個体が盗掘され激減[2]、絶滅寸前になっているものもある。この場合、「山野草の愛好家が直接盗掘する。」というケースもあるが、山取品として販売する業者の存在が大きい。

また、インターネット上で「希少植物の自生地情報交換掲示板」などと称して盗掘を助長しているサイトの存在も環境保護団体等によって問題が指摘されている。写真に添付されるGPS情報などから場所が特定され、盗掘者に情報が提供されることから奇麗だからと言って安易な写真投稿は控えることを自然公園の管理者は希望している[3]

日本では絶滅が危惧される国内希少野生動植物種に指定されている動植物も原則禁止であるが申請して許可が下りれば採取自体は可能である[4]

墓荒らし

日本
1060年、推古天皇山田高塚古墳が盗掘された。
1063年、成務天皇佐紀石塚山古墳が盗掘された。
1235年3月20日と21日に、天武天皇持統天皇が納めれた野口王墓に盗掘があったことが、藤原定家の日記『明月記』に記載されている。
1844年と1848年に、再び佐紀石塚山古墳で盗掘が行われた。
1915年、日葉酢媛命佐紀陵山古墳が盗掘された。
中国
詳細は「中国での盗墓史(中国語版)」を参照
秦の始皇8年(紀元前239年)に完成した思想書『呂氏春秋』の10巻に、墓荒らしについての記載があるように昔から盗掘が行われていた[5]
1980年代の改革開放による建設ラッシュ、そして21世紀初頭の墓荒らしを題材とする小説ジャンル「盗墓小説」が流行し、その影響からか盗掘も活発化した[6][7]
荒らされた墓で著名なものは、項羽曹操孫権孫殿英がある。
アメリカ
1876年11月7日にエイブラハム・リンカーンの墓を暴こうとする試みがあった[8]
ロシア
1920年代後半、ロシアで著名な医者であったニコライ・ピロゴフの墓が荒らされ、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世から贈られた剣などが奪われた。
ヨーロッパ
組織的犯罪により行われており、貴重な考古資料が闇市場で売り買いされている[9]。対象は、先史時代の物から第二次世界大戦の墓まで幅広く狙われている[9][10][11]
人工的な大飢饉ホロドモールの際に、食料とするために墓が荒らされた。

有名な盗掘者

墓荒らしを題材とした作品

  • アボット・パピルス(英語版)』 - エジプト新王国時代に記された盗掘者の裁判記録
  • トゥームレイダー』シリーズ
  • 『中国盗墓史稿~未だ掘られざるの墓無し』著:岡島政美
  • 『魔術師カエムワセトの物語』 - プトレマイオス朝時代のパピルスに、実在した古代エジプトの王子カエムワセトが墓荒らしをする物語がある。
  • 『奥州波奈志』 - 日本の怪談。この作品に登場する『疱瘡婆』が死体を食べるために墓荒らしを行う。
  • ウィリアム・シェイクスピアエピタフ(墓碑銘)
  • 鬼吹灯(中国語版)』 - 2006年に中国で書籍化された1980年代の墓荒らしをモデルにした娯楽小説。本作品から「盗墓小説」という小説ジャンルが流行した。

関連する法律

日本におけるルール・法律
国際的なルール

脚注

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  1. ^ 恐竜化石狙い盗掘 兵庫・篠山層群の保護区域 読売新聞 2009年12月22日「
  2. ^ “高山植物、盗掘しないで アポイ岳保全対策協 登山口で啓発”. 北海道新聞 (2018年6月17日). 2018年6月18日閲覧。
  3. ^ “岩手・早池峰山で高山植物の盗掘絶えず 登山アプリが生育場所の拡散元になる可能性も”. 河北新報オンライン (2023年11月9日). 2023年11月9日閲覧。
  4. ^ “国内希少野生動植物種の捕獲等許可の申請方法について”. 環境省. 2023年11月9日閲覧。
  5. ^ ウィキソース出典  (中国語) 呂氏春秋/卷十, ウィキソースより閲覧。 
  6. ^ “政府が総力を挙げて取り締まるほど「墓泥棒」が中国で激増中”. クーリエ・ジャポン (2021年5月19日). 2022年2月13日閲覧。
  7. ^ Qin, Amy (2017年7月15日). “Tomb Robbing, Perilous but Alluring, Makes Comeback in China” (英語). The New York Times. 2022年2月13日閲覧。
  8. ^ Martin, Alison (2021年4月15日). “This week in history: Plot to steal Abraham Lincoln’s body foiled” (英語). Chicago Sun-Times. 2022年2月13日閲覧。
  9. ^ a b Kraske, Marion (2007年12月21日). “Bulgaria Plagued by 'Grave Robbers'”. Spiegel Online. http://www.spiegel.de/international/europe/archaeology-in-crisis-bulgaria-plagued-by-grave-robbers-a-524976.html 2022年2月13日閲覧。 
  10. ^ “Rise of the Nazi-Grave Robbers”. Bloomberg Businessweek. (23 August 2016). https://www.bloomberg.com/features/2016-latvia-nazi-memorabilia/ 2022年2月13日閲覧。. 
  11. ^ “Grave robbing ghouls who trade in Nazi relics”. Sunday Express. (2012年9月8日). https://www.express.co.uk/expressyourself/344760/Grave-robbing-ghouls-who-trade-in-Nazi-relics 2022年2月13日閲覧。 
  12. ^ a b “法令違反の「宝探し」か「歴史的発見」か YouTuberと小学生の明暗を分けたポイント - 弁護士ドットコムニュース”. 弁護士ドットコム (2023年5月28日). 2023年5月28日閲覧。
  13. ^ “愛媛県庁/山野草の盗掘防止について”. www.pref.ehime.jp. 2023年5月28日閲覧。

参考文献

  • 「前方後円墳―その起源を解明する」藤田友治(編著) ISBN 4623031705 - 天皇陵の盗掘の歴史について触れている
  • 「古代エジプト探検史」ベルクテール・ジャン(英語版)(著)福田素子(訳)吉村作治(監訳) ISBN 4422210521 - エジプト盗掘の歴史

関連項目

外部リンク

  • 巨大墳墓の盗掘譚 - 中国・日本・エジプト 古代世界のあの世とこの世(「日中陵墓比較盗掘史」改題) - サイト:明治大学、著:加藤徹
典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
  • イスラエル
  • アメリカ