スペースプレーン

X-30の想像図(1986年
X-30の想像図(1990年

スペースプレーン英語: Spaceplane)は、航空機と同様に特別な打ち上げ設備を必要とせず、自力で滑走し離着陸および大気圏離脱・突入を行うことができる宇宙船。今まで複数の機体が構想されているが、技術的な問題により、実現に至った例はまだ無い。

広義には、スペースシャトルのような、翼を持ち飛行機のように滑空して着陸できる機体を含める。

概要

スペースプレーンは、航空機と同じように滑走路から離陸し、そのまま大気圏を離脱、そして大気圏再突入後は再び滑走路に着陸する宇宙船である。現在主流である使い捨て型ロケットのような複雑な打ち上げ設備を不要とし、コストの減少や運用地点の増加を見込む。

技術的特徴として、大気圏内においてはエアブリージング(英語版)(空気吸い込み型)エンジンを利用することが挙げられる。通常のロケットでは燃料となる液体水素以外に酸化剤として液体酸素等を自重に含むため、ツィオルコフスキーの公式により一層の性能向上は難しい。そこで、大気圏内では酸化剤を搭載するのではなく、空気中の酸素を酸化剤として使用することが考えられている。また、大気圏内飛行のために主翼もしくはリフティングボディなどの揚力発生機構を有する。

スペースプレーン計画には、弾道飛行を目指すものと、衛星軌道と往還する再使用型宇宙往還機を目指すものがある。最初期の構想であるSilbervogelは弾道飛行を予定しており、X-30は「ワシントン-東京の間を2時間」とうたった「衛星軌道経由の旅客機」という構想であった。2段式(空中発進)で完全再利用の有人弾道飛行はX-15とスペースシップワンで達成されているが、これらは通常はスペースプレーンに分類されない。

現在のところ、スペースプレーンは、各国に計画があるものの実用化の目処は立っていない。宇宙飛行の大幅なコスト削減に繋がるとして期待されていたが、スクラムジェットエンジンの開発が難航しており、2009年現在の技術では飛行速度・高度に応じて複数種類のエンジンを搭載しなければならず、また大気圏外ではロケットエンジンも必要不可欠であるため、実用的な機体を設計できない。また、部分再使用型宇宙往還機のスペースシャトルが使い捨て型ロケットよりも高コストとなったことで、完全再使用型宇宙往還機のスペースプレーンに対しても懐疑的な見方がされている。

主なスペースプレーン

以下のリストには、翼を持ち飛行機のように滑空して着陸するものの打ち上げにはロケットを用いるといった、広義のスペースプレーンも含まれている。

開発元 名称 画像 初出 初飛行 状態 備考
ナチス・ドイツの旗 ドイツ Silbervogel 1930年代 中止 ナチス・ドイツ敗戦と共に研究中止
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 X-15 1954年 1959年
9月17日
退役 有人弾道飛行ロケットプレーン
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 アイシングラス計画 (Project Isinglass 1964年 中止 A-12/SR-71の後継として1964年から1968年にかけて進められたが中止された。
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 スペースシャトル 1969年 1981年
4月12日
退役 有人宇宙船。ロケットにより打ち上げ
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦 エネルギア-ブラン 1960年代 1988年
11月15日
退役 ロケットにより打ち上げ
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 DC-3(英語版) 1960年代 中止
イギリスの旗 イギリス HOTOL 1985年 中止 研究中止(1985年1988年
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 X-30 NASP 1986年 中止 開発中止(1986年1994年
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦 MAKS・スペースプレーン 1988年 中止
ドイツの旗 ドイツ ゼンガーII 1988年 中止 将来型欧州宇宙輸送調査計画 (FESTIP) に移行(1988年~1994年)
日本の旗 日本 スペースプレーン 1980年代 構想 2010年時点で研究レベル。実現はかなり先。[1]
日本の旗 日本 HOPE 1990年代始め 中止 ロケットにより打ち上げ
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ベンチャースター 1996年 中止 垂直離陸水平着陸の単段式ロケットプレーン
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 X-37 1996年 2010年
4月22日
運用中 無人研究機。ロケットにより打ち上げ。アメリカ航空宇宙局が手を引いたため、2006年以降はアメリカ空軍専属プロジェクトとなる。
インドの旗 インド Avatar 1998年 構想
ロシアの旗 ロシア クリーペル 1990年代 中止 有人宇宙船。ロケットにより打ち上げ
アメリカ合衆国の旗 スケールド・コンポジッツ スペースシップワン 2003年
12月17日
退役 有人弾道飛行。母機から空中発射するロケットプレーン
アメリカ合衆国の旗 シエラ・ネヴァダ・コーポレーション ドリームチェイサー 2004年 開発中 無人宇宙船。ロケットにより打ち上げ
アメリカ合衆国の旗 スペースシップ・カンパニー スペースシップツー 2006年 2013年
4月29日
運用中 有人弾道飛行。母機から空中発射するロケットプレーン
中華人民共和国の旗 中国 神竜(英語版) 2007年 開発中 無人研究機。ロケットにより打ち上げ[2]
日本の旗PDエアロスペース ペガサス 2009年 開発中 有人弾道飛行スペースプレーン
イギリスの旗 リアクション・エンジンズ(英語版) スカイロン 2000年代 開発中 エアブリージングエンジンを用いる単段式スペースプレーン
アメリカ合衆国の旗 オービタル・サイエンシズ プロメテウス 2010年 中止 有人宇宙船。ロケットにより打ち上げ
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 XS-1 2013年 中止 無人弾道飛行。多段式ロケットの1段目をスペースプレーンに置き換える計画。
日本の旗SPACE WALKER 風神 2018年 開発中 無人弾道飛行スペースプレーン
中華人民共和国の旗 中国 再使用可能実験宇宙機 2020年
9月4日
運用中 無人研究機。ロケットにより打ち上げ。
アメリカ合衆国の旗 スペースシップ・カンパニー スペースシップ III 2021年 開発中 有人弾道飛行。母機から空中発射するロケットプレーン

JAXAのスペースプレーン

NAL1980年代からスペースプレーンの研究を行っており、2003年JAXAへの統合後も研究は続けられている。このスペースプレーンには2006年現在も特別な名称が無く、単に「スペースプレーン」と呼ばれている。アメリカのNASPに似た形状の想像図や、スペースシャトルのような宇宙船を背負った二段式の想像図が公開されている。 また、旧ISASで基礎研究が行われ、統合後も研究が続けられているATREXにおいても、応用例として2段式スペースプレーンの想像図を示している。

関連項目

参考文献

  1. ^ “第一部「国際宇宙ステーション『きぼう』が拓く有人宇宙開発」 で出された意見”. 第53回JAXAタウンミーティング in 宮崎. JAXA (2010年11月27日). 2012年6月8日閲覧。
  2. ^ “Shenlong Space Plane: China’s Answer To U.S. X-37B Drone?”. ハフポスト. (2017年12月6日). https://www.huffpost.com/entry/shenlong-space-plane-china_n_2110084 2019年10月21日閲覧。 
  • 松浦晋也『われらの有人宇宙船-日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」-』裳華房、2003年。ISBN 4-7853-8758-0。 

外部リンク

  • JAXA オンライン・スペースノート ロケット - スペースプレーン - ウェイバックマシン(2006年5月8日アーカイブ分)
スペースプレーン
カナダ
中国
ヨーロッパ
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  • 大気圏再突入実験用スペースプレーン(英語版)
  • ブリストル・エアロスペース(英語版)
  • ファルケ (宇宙船)(英語版)
  • エルメス
  • ホッパー
  • HOTOL
  • BACマスタード(英語版)
  • Orizont
  • スイス・スペース・システム(英語版)
  • ジルバーフォーゲル
  • ゼンガーII
歴史的
開発中
  • エアバス・ディフェンス・アンド・スペースプレーン(英語版)
  • スカイロン
  • スペース・ライダー(英語版)
  • スペース・ライナー(英語版)
インド
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  • AVATAR
開発中
  • RLV-TD
    • 極超音速飛行実験(英語版)
日本
  • HYFLEX/OREX/ALFLEX
  • HOPE
  • 有翼式再使用型観測ロケット(英語版)
  • ヤマト (宇宙船)
ソ連 / ロシア
アメリカ
活動中
歴史的
キャンセル
  • クライスラー SERV(英語版)
  • DARPA FALCON計画
  • マーティン・マリエッタ・スペースマスター(英語版)
  • X-20 ダイナソア
  • オービタル・サイエンシズ X-34
  • ロックウェル X-30 (NASP)
  • ロッキード・マーティン X-33
  • NASA X-43
  • シルバーダート (宇宙船)(英語版)
  • HL-20
  • HL-42 (宇宙船)(英語版)
  • ロケットプレーンXP
  • ベンチャースター
  • ブラックホース (ロケット)(英語版)
  • NASA X-38
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