慣性上段ロケット

曖昧さ回避 IUS」はこの項目へ転送されています。子宮内避妊システム(: intrauterine system)については「IUS (産婦人科学)」をご覧ください。
ユリシーズがスペースシャトルから放出される場面を描いた想像図
ガリレオ」と、その下に接続されている慣性上段ロケットIUS)ブースター。これらはスペースシャトルアトランティスSTS-34ミッションで宇宙へ打ち上げられ、その後放出された。

慣性上段ロケット(かんせいじょうだんロケット、: Inertial Upper Stage: IUS, 元々は Interim Upper Stageとして知られていた)または慣性誘導上段ロケット(かんせいゆうどうじょうだんロケット)[1]とは、二段構成の固体ロケットエンジンである。アメリカ空軍によって開発された。開発目的はタイタンIIIロケット、タイタン 34D、(後にタイタンIV)、またはスペースシャトルの貨物室から重くて大きなペイロードを打ち上げるためである。

開発

1969年から同74年にかけてスペースシャトル開発期を通じて、NASAは、米空軍が行う援助を受けつつ、スペースシャトル上でも、しかし同時にタイタンIIIにも切り替えて使えるロケットの上部ステージを欲していた。これにより、タイタンIII型は、サターンV型ロケットの派生型であり1973年に一度だけスカイラブを打ち上げるために使われたサターンINT-21(英語版)以来の、合衆国軍用でもっとも強力な無人ロケットとなる予定だった。これは、万が一、スペースシャトルが開発途中の試験が遅延した際に使う保険として開発していた。しかし、NASAは、惑星探査ミッションにセントール上部段の別バージョンを使用することを検討していた。米空軍はトランステージというハイパーゴリック推進剤仕様の、ほとんどのタイタンIII型に使われた上段を使いたい、セントールは必要無いと思っていた。トランステージはセントールとは違い、シャトルのOMSやRCSと同じ燃料/酸化剤を使えた。

固体燃料のIUSはトランステージとセントールとの間を埋めるものとして作られたものだった。トランステージはNASAの大抵のペイロードの打ち上げに足りうるほどに強力では無く、ごく軽い衛星を軌道に乗せられる程の非力なもので力不足だった。それに対して、セントールは全ての軍事衛星偵察衛星電子諜報衛星を打ち上げるために必要とされていなかった。つまりこれ一本で小型・軽量級から大型・重量級までの衛星を打ち上げるためには能力が有りすぎて、まさに役不足だったのである。IUSは、スペースシャトルかタイタン 34Dのどちらかを使って、2つのアメリカ国防総省もしくはアメリカ国家安全保障局の大型偵察衛星(DSP衛星)をソビエト連邦の衛星よりも上空を飛ぶふさわしい軌道に投入するのに、または単一のNASAの衛星(よく知られているものにTDRS等が有る)を静止軌道に投入するのに十分な能力を持っていた。

IUSの最初の打ち上げは1983年、スペースシャトルSTS-6ミッションの少し前、ケープカナベラル空軍基地からタイタン 34Dを使ってのものだった[2]。ボーイングがIUSの主要な請負人だった[3]。協力企業としてユナイテッド・テクノロジーズ社化学システム部門がIUSの固体ロケットモーターを製造した[4]

働き

IUSは二段ロケットだった。タイタン・ロケットにより離翔し、または、スペースシャトルの「貨物(カーゴ)」として格納されて、それらのロケットと一緒に打ち上げられた。

タイタン打ち上げでは、一段目と二段目および補助固体ブースタがIUSをペイロードと共に運び上げ、低軌道まで打ち上げたものだった。そこでIUSはタイタンと切り離され、より高高度の軌道へと遷移する楕円軌道に移すためのIUS自身の第一段目を点火したのである。

シャトル打ち上げでは、貨物室が開けられ、IUS とペイロードが50度の角度で持ちあげられて放出された。シャトルがペイロードから安全な距離を充分にとって離れると、第一段目を点火して、そこからはタイタンでの打ち上げミッションと同様に”トランスファ軌道”に入ったのであった。遠地点へと近づく直前に第一段目と段間部を切り離し、丁度、遠地点で軌道の形を円形にするために第二段を着火し、衛星を分離した。その後、高度調整ジェットをつかって逆噴射を行い、IUS が運んできたペイロードとぶつかる危険を避けるために軌道を落としたのである。

追記すると、下記の通信衛星・偵察衛星打ち上げミッションでは、衛星は24時間で一周する静止軌道に乗せられたが、IUS は惑星間探査機を加速するのにも使われた。それらの探査機打ち上げミッションでは、第一段目が燃え尽き分離してからすぐに第二弾目が点火された。低い高度で第二段目に点火することで、探査機は地球軌道から離脱するのに必要なだけの速度を得ることができた。

IUS が使われた打ち上げ任務

2007年現在、以下のミッションはIUS を使って打ち上げられた。これらのほとんどがスペースシャトルからの打ち上げである。1986年のチャレンジャー号事故ののち、スペースシャトル用セントールが禁止されてから特に増えた。

# 日付 打ち上げロケット ペイロード
(衛星名)
備考 画像
1 1982年
10月30日
タイタン 34D DSCS-II F16(英)
DSCS-III A1
フライトの殆どの時間において
テレメトリを受信できなかったにもかかわらず、
ミッションは成功した。
No image.
2 1983年
4月4日
STS-6 TDRS A 姿勢制御系の不具合により二段目が宙返りをうった。
地上の管制官は数週間以上にわたって
衛星を正しい軌道に載せるために
衛星本体に積んでいる過剰な燃料を吹かさなければいけなかった。
3 1985年
1月24日
STS-51-C Magnum 1(en) アメリカ国防総省による
軍事機密ペイロード
(Classified DoD payload.:以下CDP)
No image.
4 1985年
10月3日
STS-51-J DSCS-III B4
DSCS-III B5
CDP No image.
5 1986年
1月28日
STS-51-L TDRS B チャレンジャー号事故により破壊された。 No image.
6 1988年
9月29日
STS-26 TDRS C
7 1989年
3月13日
STS-29 TDRS D No image.
8 1989年
5月4日
STS-30 マゼラン 金星探査機
9 1989年
6月14日
タイタン IVA DSP 14 No image
10 1989年
10月18日
STS-34 ガリレオ 木星、および
その衛星探査機
11 1989年
11月22日
STS-33 Magnum 2 CDP No image.
12 1990年
10月6日
STS-41 ユリシーズ
13 1990年
11月13日
タイタン IVA DSP 15 No image.
14 1990年
11月15日
STS-38 Magnum 3、
もしくは
SDS-2(英)
正確なペイロードは不明
CDP No image.
15 1991年
8月2日
STS-43 TDRS E
16 1991年
11月24日
STS-44 DSP 16
17 1993年
1月13日
STS-54 TDRS F
18 1994年
12月22日
タイタン IVA DSP 17 No image.
19 1995年
7月13日
STS-70 TDRS G TDRS-Bの代替
20 1997年
2月23日
タイタン IVB DSP 18 No image.
21 1999年
4月9日
タイタン IVB DSP 19 IUS 第二段からの分離に失敗。 No image.
22 1999年
7月23日
STS-93 チャンドラX線観測衛星
23 2000年
5月8日
タイタン IVB DSP 20 No imgae.
24 2001年
8月6日
タイタン IVB DSP 21 No image.
25 2004年
2月14日
タイタン IVB DSP 22 No image.

現状

今のところ、IUS よりもっと使いやすく効率的なセントール上段が、新型のアトラス Vも含んだアトラスロケットで使われているため、IUS は事実上の"semi-retired"、「準退役」状態に置かれている。しかしながら、将来において、デルタ IVを増強させるために使われるかもしれない。もしかしたら、例えばアレスIアレスVのような現時点で未だ計画段階にあるシャトル派生型ロケットにおいて上段として使われるかもしれない。

しかしながら万に一つでもありそうに無いことだが、最後に残った慣性上段ロケットを使った最終打ち上げとして、かつボーイング社のIUSチームが解散していなければ、将来にわたってのIUS衛星搭載ロケットの生産は、全く以って高額なものになるだろう。

脚注

  1. ^ [1]
  2. ^ Mark C. Cleary, Chief Historian (1994年1月). “The Cape: Military Space Operations 1971-1992” (英語). GrobalSecurity.org. 2011年1月17日閲覧。
  3. ^ John Pike (27-04-2005 23:17:03 Zulu). “Titan IV Inertial Upper Stage (IUS)” (英語). GrobalSecurity.org. 2011年1月18日閲覧。
  4. ^ Jim Dumoulin ([email protected]) (Thursday August 31 10:05:58 EDT 2000). “SPACE TRANSPORTATION SYSTEM PAYLOADS” (英語). KSC, NASA. 2011年1月18日閲覧。

参考文献

  • The Cape, Chapter 2, Section 6, TITAN 34D Military Space Operations and Facilities at the Cape
  • Titan IV Inertial Upper Stage (IUS)
  • SPACE TRANSPORTATION SYSTEM PAYLOADS

関連項目

打ち上げ機

軌道

各国テンプレート
  • ソビエト連邦の旗/ロシアの旗ソ連・ロシアのロケット
  • アメリカ合衆国の旗アメリカのロケット
  • 欧州連合の旗欧州のロケット
  • 日本の旗日本のロケット
  • 中華人民共和国の旗中国のロケット
  • インドの旗インドのロケット
その他のロケット
  • ウクライナの旗ウクライナ: ゼニット - ツィクロン - ドニエプル
  • イスラエルの旗イスラエル: シャヴィト
  • ブラジルの旗ブラジル: VLS-1 - VLM
  • 朝鮮民主主義人民共和国の旗北朝鮮: 白頭山1号 - 銀河2号 - 銀河3号・光明星号
  • イランの旗イラン: サフィール - シムルグ
  • 大韓民国の旗韓国: 羅老 - ヌリ
  • ニュージーランドの旗ニュージーランド: エレクトロン
  • インドネシアの旗インドネシア: RPS-420
一覧
開発中または未成功、退役済みのものを含む。
現役
計画
退役
中心項目



構成要素
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オービター拡張機能
クルー
ミッション
試験
事故
支援系
射場・着陸場
特別プログラム
  • D-1 (STS-61-A)
  • ゲットアウェイスペシャル (GAS)(英語版)
  • ティーチャー・イン・スペースプロジェクト (TISP)(英語版)
  • シャトル・ミール計画
  • ヒッチハイカー計画(英語版)
派生物
関連項目
その他
  • スペースシャトル計画への批判(英語版)
液体燃料
低温
推進剤
液体水素/
液体酸素
液体メタン/
液体酸素
準低温
推進剤
ケロシン/
液体酸素
ハイパー
ゴリック
推進剤
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四酸化二窒素
ケロシン/過酸化水素
非対称ジメチルヒドラジン/
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  • S-7
  • SR118
  • SR119
  • SR120
  • キャスター120
  • オライオン50
上段ロケット
原子力推進
小推力
エンジン
ハイパー
ゴリック推進剤
電気推進
DCアークジェット
  • MR-508
ホールスラスタ
イオンエンジン
関連項目
エンジン
サイクル