保守本流

自由党を率いた吉田茂

保守本流(ほしゅほんりゅう)とは、自由民主党において、吉田茂が率いた自由党の系譜に連なる派閥やその勢力をいう。日米安全保障条約による軍備縮小経済優先、社会保障の拡大などの傾向がある。

対して、日本民主党の流れをくむ勢力を保守傍流という。

概要

吉田茂が率いた旧自由党系の流れを汲み、池田勇人佐藤栄作など官僚出身者(いわゆる吉田学校)を中心とした勢力を指しており、1955年保守合同によって自由民主党に合流した鳩山一郎岸信介河野一郎などを中心とする旧改進党日本民主党のどちらかといえば党人派を中心とする系統に対立して用いられた。

政策的には吉田茂の主導した軽軍備、日米安保体制を基軸とし、国際貿易を通じた経済成長などに特色があり、戦後日本の進路を大枠において確定させたということができる。

自由民主党においては、池田勇人が池田派(宏池会)、佐藤栄作が佐藤派(周山会)を形成し、佐藤派は佐藤後継をめぐる田中角栄福田赳夫との激しい総裁選を田中が制した結果、田中派(木曜クラブ、のちに竹下派(経世会))となった。田中内閣以降、1990年代までこの2派がほぼ一貫して主流となって政権を構成した。大平、鈴木、竹下、宮沢、橋本、小渕内閣は両派の領袖が総裁となり、三木、中曽根、海部内閣では両派が中間派閥を支持した例である。これに対して福田は、「十日会」と「党風刷新連盟」、のち「紀尾井会」に分裂した岸派を糾合して福田派(清和会)を形成、ハト派的な主流派に対して憲法改正論議などタカ派的政策を掲げて対抗し、中曽根派三木派など中間派を交えて、激しい抗争を数次にわたって繰り広げた。

2021年現在では保守傍流とされる清和政策研究会(安倍派)が党内で圧倒的な数を持つ第1派閥となり、森派(現:安倍派)出身である小泉純一郎総理や安倍晋三総理の長期政権の影響、衆議院選挙が中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に移行したこと、小泉改革などによって派閥という概念が弱まってきていることもあり、自民党内において本流・傍流の概念は形骸化しつつある。現在は小渕恵三以降総理総裁になっていない平成研究会の復権や、宏池会系の統合(大宏池会構想)に向けて気勢を上げる合言葉として思い出したように持ち出される程度で用いられる。また、傍流とされる清和会のサイトの挨拶にも自ら「保守本流」を名乗る表現も見られる。

歴史

1960年代、安保闘争のあおりを受けて復古派といわれた岸内閣の後を継いだ池田内閣は、「国民所得倍増計画」を掲げ経済成長優先の政策をとり、1964年東京オリンピックを実施するなど国民に復興と経済発展を実感させた。ついで佐藤栄作は安定成長への転換をはかり、7年8ヶ月におよぶ当時日本史上最も長期となった政権において大阪万博沖縄返還などを実現、自民党政権の強固な基盤を築いた。

1970年代、田中角栄内閣のもとで列島改造を推進し新幹線、高速道路などの国土基盤を整備する一方で、護送船団体制の庇護下にある大企業主導の経済体制のもと一億総中流を実現。政治的要求を掲げる労働運動は抑制する一方、労働組合を労使協調路線に誘導する政策をとった。一方で、企業規制や公害対策を講じアメとムチの論理で社会保障を充実させた。政治的位置は保守であるが、積極的に富の再配分を行うなど、経済的には左派(もっともこれは新保守主義と比較して見た場合であり、第二次大戦後の先進諸国では保守政党混合経済体制を採用した例が多かった)であり、対外的には、アメリカとの同盟関係を重視しつつ、日中国交正常化を実現するなどアジア諸国とも緊密なパイプを築くハト派的外交を行い、積極的なODAを行い、さらに欧米主要国に依存しないエネルギー供給を模索し独自の中東外交をおこなうなど、従来の保守本流から逸脱する側面もある。また田中は比類のない政治指導力によって各省庁の官僚を掌握して政府に対する党の優位を確立、各種利益団体を組織化して集票マシーンとするなど、政策あるいは政治理念、そして政治手法の両面において従来の保守本流は大きく変容した。しかし、政官界を巻き込むロッキード事件によって田中が失脚すると、田中派的な政治手法は厳しい金権政治批判の対象となった。

1980年代には、カムバックを狙った田中は自派からは総裁候補を立てず、宏池会など他派閥の領袖を支持することで、党幹事長など主要ポストなどを通じて実権を握るという方針を取り、派閥会長を退いた田中は強大な影響力を維持し闇将軍とよばれた。こうしていわゆる田中派支配が完成されることになる。大平正芳鈴木善幸と宏池会出身の首相に続いて、田中の支持を受けて成立した中曽根内閣のもとでは、日本においても新保守主義の影響力が及ぶようになり、国鉄電電公社専売公社民営化などの政策が取られた。また戦後政治の総決算を掲げた中曽根は、靖国神社の公式参拝などタカ派的な要素が強く、いわゆる保守本流の路線から距離を置いた。田中派内では、田中の方針に不満を持った若手議員らがニューリーダーと呼ばれた竹下登を会長とする創政会を結成し、のちに竹下派(経世会)に発展する。いわゆる中曽根裁定によって成立した竹下内閣では、竹下および竹下派の与野党を横断する人脈、安定した政治指導を背景に長年の懸案であった大型間接税消費税を導入、シャウプ勧告以来課題とされた「直間比率の是正」を実現した。しかし、リクルート事件では竹下自身が疑惑の渦中にあり、ほぼ全派閥にわたって多くの有力議員が事件に関与していたことが明らかになり、国民の政治不信は頂点に達した。

1990年代は長期的な経済不況に見舞われ累次の「総合経済対策」により公共事業を実施するが、すでに経済構造の変化により有効的な政策にはならず国・地方の財政赤字が増大。その一方で、金丸信ら竹下派を舞台とする東京佐川急便事件、宏池会の議員が関与した共和汚職事件など疑獄事件が繰り返され、政官財トライアングルの癒着、公共事業における談合、腐敗が明らかになり、利益誘導政治が批判された。また最大派閥竹下派による「数の支配」は厳しい批判の対象となり、とくに竹下、金丸、小沢一郎の三者による政治指導は金竹小と呼ばれた。この経世会支配は、党内においても反発を呼び、加藤紘一(宮澤派)、山崎拓(中曽根派)、小泉純一郎(三塚派)らが派閥横断的な提携関係により経世会支配に対抗しようとした(YKK)。こうして政治改革が最大の課題となり、これをめぐる混乱のなかで保守本流の流れを汲む2派閥は、経世会は政治改革をめぐって小沢一郎羽田孜らが離脱、改革フォーラム21を結成(羽田派)、ついで離党した後、小渕恵三を会長とする平成研究会となり、橋本龍太郎、小渕恵三の2代の総理大臣を出した。また宏池会は宮澤喜一の後継会長をめぐって、河野洋平麻生太郎らが離脱、ついで派閥会長加藤紘一が支持率の低迷する森喜朗内閣の倒閣を狙ったいわゆる加藤の乱で、古賀誠を中心とする古賀派と加藤に従った小里貞利ら小里派(のちに谷垣派)に3分裂した。また森喜朗の後継首相、小泉純一郎は旧経世会の支持基盤である郵政事業の解体、道路などの公共事業の削減を進めると同時に、派閥最高幹部である野中広務青木幹雄のうち参議院議員を掌握する青木と提携することで平成研の分断をはかり、さらに日歯連闇献金事件をきっかけに橋本が政界引退を余儀なくされ、有力な総裁候補がいないこともあり平成研(津島派)は弱体化した。

派閥

現在の派閥

過去の主な派閥

その他

  • 民主党の小沢一郎(第6代代表)、鳩山由紀夫(第2代・第7代代表)、岡田克也(第4代代表)も自民党経世会(竹下派)の出身であり、そのグループである「一新会」も保守本流の流れを汲んでいる。菅直人は「今や民主党が保守本流である」と過去に発言したことがある[1]

関連項目

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脚注

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  1. ^ 『朝日新聞』2006年9月5日

参考文献

陰十四菊 自由民主党
前身: 自由党日本民主党
 
歴史
1950年代:
55年体制の成立と
社会保障制度の導入
55年 - 鳩山一郎
56年 - 石橋湛山
57年 - 岸信介
1960年代:
高度経済成長
吉田学校の系譜
60年 - 池田勇人
64年 - 佐藤栄作
1970年代:
三角大福中
闇将軍
72年 - 田中角栄
74年 - 三木武夫
76年 - 福田赳夫
78年 - 大平正芳
1980年代:
「和の政治」と
「戦後政治の総決算」
80年 - 鈴木善幸
82年 - 中曽根康弘
87年 - 竹下登
89年 - 宇野宗佑
89年 - 海部俊樹
1990年代:
野党転落と
経世会支配
91年 - 宮澤喜一
93年 - 河野洋平
95年 - 橋本龍太郎
98年 - 小渕恵三
2000年代:
清和会支配と
野党再転落
00年 - 森喜朗
01年 - 小泉純一郎
06年 - 安倍晋三
07年 - 福田康夫
08年 - 麻生太郎
09年 - 谷垣禎一
2010年代:
与党復帰と
安倍一強
12年 - 安倍晋三
2020年代
20年 - 菅義偉
21年 - 岸田文雄
 
派閥
保守本流

宏池会宏池会系

宏池会(池田派 → 前尾派 → 大平派 → 鈴木派 → 宮澤派) → 木曜研究会(加藤派 → 小里派 → 谷垣派 → 古賀派に合流×) 、※新財政研究会(堀内派 → 丹羽・古賀派) → 宏池政策研究会(古賀派 → 岸田派 → ×)、※大勇会(河野派) → 為公会(麻生派) → 志公会麻生派)、※有隣会(谷垣グループ → ×)

平成研究会木曜研究会系

木曜研究会(佐藤派) → 周山会(佐藤派) → 周山クラブ(保利グループ → 福田派に合流×)、※七日会(田中派) → 政治同友会(田中派) → 木曜クラブ(田中派 → 二階堂派 → ×)、※経世会(竹下(登)派 → 小渕派) → 平成政治研究会(小渕派) → 平成研究会(小渕派 → 橋本派 → 津島派 → 額賀派 → 竹下(亘)派 → 茂木派)、※改革フォーラム21(羽田・小沢派 → 新生党に合流×)

水曜会

水曜会(緒方派 → 石井派 → ×)

白政会

白政会(大野派) → 睦政会(大野派) → 一新会(船田派 → ×)、※一陽会(村上派) → 巽会(水田派 → ×)

保守傍流

清和政策研究会(十日会系)

十日会(岸派 → ×)、※党風刷新懇話会 → 党風刷新連盟 → 紀尾井会(福田派) → 八日会(福田派) → 清和会(福田派 → 安倍(晋太郎)派 → 三塚派) → 21世紀を考える会・新政策研究会(三塚派 → 森派) → 清和政策研究会(森派 → 町村派 → 細田派 → 安倍(晋三)派 → ×)、※政眞会(加藤派 → 新生党に合流×)、※愛正会(藤山派 → 水田派に合流×)、※(南条・平井派 → 福田派に合流×)、※交友クラブ(川島派 → 椎名派 → ×)、※(亀井グループ → 村上・亀井派に合流×)

志帥会近未来政治研究会春秋会系

春秋会(河野派 → 森派 → 園田派 → 福田派に合流×)、※新政同志会(中曽根派) → 政策科学研究所(中曽根派 → 渡辺派 → 旧渡辺派 → 村上派 → 村上・亀井派に合流×) → 志帥会(村上・亀井派 → 江藤・亀井派 → 亀井派 → 伊吹派 → 二階派)、※近未来政治研究会(山崎派 → 石原派 → 森山派 → ×)、※さいこう日本甘利グループ)、※国益と国民の生活を守る会(平沼グループ → 日本のこころに合流×)

番町政策研究所(政策研究会系)

政策研究会(松村・三木派) → 政策同志会(松村・三木派) → 政策懇談会(松村・三木派 → ) → 政策懇談会(三木派) → 新政策研究会(河本派) → 番町政策研究所(河本派 → 高村派 → 大島派 → 山東派 → 麻生派に合流×)、※(松村派 → ×)、※(早川派 → 福田派に合流×)

火曜会(石橋派)、二日会(石田派 → 三木派に合流×)

青嵐会

青嵐会、自由革新同友会(中川グループ → 石原グループ → 福田派に合流×)

保守新党

新しい波(二階グループ → 伊吹派に合流×)

83会

83会、新しい風(武部グループ → ×)、伝統と創造の会稲田グループ)、保守団結の会

水月会

さわらび会(石破グループ) → 水月会(石破派 → 石破グループ

無派閥

無派閥連絡会無派閥有志の会、のぞみ(山本グループ)、きさらぎ会(鳩山グループ → 菅グループ)、 ガネーシャの会

※は派閥離脱、太字は現在への系譜、括弧内矢印は派閥継承。
 
機構
制度
執行部
組織
 
源流
日本自由党
日本進歩党
日本協同党
 
団体
支援団体
支持団体

日本行政書士政治連盟 - 日本司法書士政治連盟 - 全国土地家屋調査士政治連盟 - 日本公認会計士政治連盟 - 全国社会保険労務士政治連盟 - 日本酒造組合連合会 - 日本蒸留酒酒造組合 - ビール酒造組合 - 日本洋酒酒造組合 - 全国卸売酒販組合中央会 - 全国小売酒販政治連盟 - 全国たばこ販売政治連盟 - 全国たばこ耕作組合中央会 - 全私学連合会 - 全日本私立幼稚園連合会 - 全国専修学校各種学校総連合会 - 全日本教職員連盟 - 日本私立中学高等学校連合会 - 一般社団法人全国教育問題協議会 - 全国ゴルフ関連団体協議会 - 私立幼稚園経営者懇談会 - 全国私立小中高等学校保護者会連合会 - 神道政治連盟 - 財団法人全日本仏教会 - 天台宗 - 高野山真言宗 - 真言宗智山派 - 真言宗豊山派 - 浄土宗 - 浄土真宗本願寺派 - 真宗大谷派 - 臨済宗妙心寺派 - 曹洞宗 - 日蓮宗 - インナートリップ・イデオローグ・リサーチセンター - 崇教真光 - 立正佼成会 - 佛所護念会教団 - 妙智会教団 - 新生佛教教団 - 松緑神道大和山 - 世界救世教 - 日本医師連盟 - 日本歯科医師連盟 - 日本薬剤師連盟 - 日本看護連盟 - 日本製薬団体連合会 - 日本保育推進連盟 - 日本柔道整復師会 - 日本歯科技工士連盟 - 全国介護政治連盟 - 全国旅館政治連盟 - 全国飲食業生活衛生同業組合連合会 - 全日本美容生活衛生同業組合連合会 - 全国クリーニング業政治連盟 - 環境保全政治連盟 - 日本環境保全協会 - 日本造園組合連合会 - 全国ビルメンテナンス政治連盟 - 全国商工政治連盟 - 全国石油政治連盟 - 全国LPガス政治連盟 - 日本商工連盟 - 全国中小企業政治協会 - 全国商店街政治連盟 - 社団法人日本調査業協会 - 社団法人全日本ダンス協会連合会 - 全国農業者農政運動組織協議会 - 21全国農政推進同志会 - 日本森林組合連合会 - 社団法人全国林業協会 - 日本酪農政治連盟 - 全国畜産政治連盟 - 全国漁業協同組合連合会 - 大日本水産会 - 日本自動車工業会 - 日本中古自動車販売協会連合会 - 日本自動車販売協会連合会 - 日本港湾空港建設協会連合会 - 日本自動車整備振興会連合会 - 社団法人全日本トラック協会 - 東日本ときわ会宮城県支部 - 21テレコム会議 - 全国土地改良政治連盟 - 日本港湾空港建設協会連合会 - 社団法人全国建設業協会 - 社団法人日本建設業団体連合会 - 社団法人日本建設業連合会 - 社団法人日本建設業経営協会 - 社団法人全国中小建設業協会 - 社団法人日本道路建設業協会 - 社団法人日本橋梁建設協会 - 社団法人建設コンサルタンツ協会 - 社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 - 社団法人建設産業専門団体連合会 - 社団法人日本鳶工業連合会 - 社団法人日本造園建設業協会 - 社団法人全国建設業産業団体連合会 - 社団法人全国測量設計業協会連合会 - 社団法人全国地質調査業協会連合会 - 社団法人全国さく井協会 - 社団法人建設電気技術協会 - 日本下水コンポスト協会 - 社団法人全国道路標識・標示業協会 - 社団法人全国鐵構工業協会 - 社団法人日本建設躯体工事業団体連合会 - 社団法人日本塗装工業会 - 一般社団法人日本プレハブ駐車場工業会 - 社団法人不動産協会 - 全国不動産政治連盟 - 全日本不動産政治連盟 - 社団法人住宅生産団体連合会 - 全国生コンクリート工業組合連合会 - 軍恩連盟全国協議会 - 日本傷痍軍人会(解散) - 社団法人日本郷友連盟 - あすの会(解散)

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